策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
前に一度だけ来院したかな、シーズーを抱いている、よく喋るオーナー。
名前を呼ぶと周りのオーナーに軽く頭を下げながら、診察室に入って来た。
挨拶をしてから、体重測定と検温中もずっと話しつづけている。
さて、今日はどうしたのかな? 問診を始めたはいいけれどたじたじ。
うちの子は、なんたらかんたら。
それで近所のなんとかちゃんも、ああでこうで、うんぬんかんぬん。
ところが、うちの旦那がそうしたもんだから、お隣のご主人がなんやかんや。
「すみません」
戸和先生が口を開くけれど、『それでね、先生』って止まらない。
「世間話は別の機会にして、できる限り要領よくシンプルに正確に教えてください」
戸和先生が言うのもわかる。
世間話から得る情報があるのに、今回のオーナーの世間話からは得るものがなにもない。
「調子の悪い動物をはさんで、今こうして飼い主さんと情報のやりとりをしてます。なにより動物に起こっている状況を知りたいんです」
ほんの少しだけ戸和先生強く言った。少しくらい強く言わなきゃわからなそうな相手。
戸和先生と二人で、いろいろ角度を変えて話を引き出してみたけれど、どうにもこうにも患畜の話までたどりつかない。
いらない情報が多すぎる。次から次に患畜が待っているのに、手に負えない。
「目の前の苦しんでいる家族のために、ひとつでも多くの情報を、短時間のあいだに要領よく伝える努力をしてみてください」
診察の最後に戸和先生が言った。オーナーに届いたらいいな、こんな感じだと患畜がかなわない。
ほぼ初診みたいなオーナーに時間を取られ、やっと診察室をあとにした。
「お疲れ様です」
「桃もお疲れ様、ありがとう。凄かったね、彼女は話し相手がいないの? 僕の頭の中、日本語たくさんぐるぐる」
びっくりしたよね、目玉までくるんと回してみせる。
戸和先生の分まで、私が言葉のカバーをしなくちゃ。
「今みたいなオーナーに対して、もう来ないで嫌だなって思いましたか?」
「別に気にしないね。そんな考え方してたら、僕はここにはいない」
スクラブを脱ぐジェスチャーをする。
「患畜のためや自分のためにがんばった。自分を支えてくれる桃のために、さらにがんばる気持ちだよ」
いつも、院長や卯波先生や坂さんに頼ってばかりの私を頼ってくれる人がいる。
頼られることがまんざらでもなくて、嬉しくなった。
「家畜のことはスペシャリストだけど、伴侶動物のことは新人」
またまたあ、謙遜しちゃって。
「次は、どんな子かな、ねえ桃?」
ニコってする笑顔が優しくて、つられて頬が緩む。
自分が支えて、二人でやり遂げることの喜びを知った気がする。
名前を呼ぶと周りのオーナーに軽く頭を下げながら、診察室に入って来た。
挨拶をしてから、体重測定と検温中もずっと話しつづけている。
さて、今日はどうしたのかな? 問診を始めたはいいけれどたじたじ。
うちの子は、なんたらかんたら。
それで近所のなんとかちゃんも、ああでこうで、うんぬんかんぬん。
ところが、うちの旦那がそうしたもんだから、お隣のご主人がなんやかんや。
「すみません」
戸和先生が口を開くけれど、『それでね、先生』って止まらない。
「世間話は別の機会にして、できる限り要領よくシンプルに正確に教えてください」
戸和先生が言うのもわかる。
世間話から得る情報があるのに、今回のオーナーの世間話からは得るものがなにもない。
「調子の悪い動物をはさんで、今こうして飼い主さんと情報のやりとりをしてます。なにより動物に起こっている状況を知りたいんです」
ほんの少しだけ戸和先生強く言った。少しくらい強く言わなきゃわからなそうな相手。
戸和先生と二人で、いろいろ角度を変えて話を引き出してみたけれど、どうにもこうにも患畜の話までたどりつかない。
いらない情報が多すぎる。次から次に患畜が待っているのに、手に負えない。
「目の前の苦しんでいる家族のために、ひとつでも多くの情報を、短時間のあいだに要領よく伝える努力をしてみてください」
診察の最後に戸和先生が言った。オーナーに届いたらいいな、こんな感じだと患畜がかなわない。
ほぼ初診みたいなオーナーに時間を取られ、やっと診察室をあとにした。
「お疲れ様です」
「桃もお疲れ様、ありがとう。凄かったね、彼女は話し相手がいないの? 僕の頭の中、日本語たくさんぐるぐる」
びっくりしたよね、目玉までくるんと回してみせる。
戸和先生の分まで、私が言葉のカバーをしなくちゃ。
「今みたいなオーナーに対して、もう来ないで嫌だなって思いましたか?」
「別に気にしないね。そんな考え方してたら、僕はここにはいない」
スクラブを脱ぐジェスチャーをする。
「患畜のためや自分のためにがんばった。自分を支えてくれる桃のために、さらにがんばる気持ちだよ」
いつも、院長や卯波先生や坂さんに頼ってばかりの私を頼ってくれる人がいる。
頼られることがまんざらでもなくて、嬉しくなった。
「家畜のことはスペシャリストだけど、伴侶動物のことは新人」
またまたあ、謙遜しちゃって。
「次は、どんな子かな、ねえ桃?」
ニコってする笑顔が優しくて、つられて頬が緩む。
自分が支えて、二人でやり遂げることの喜びを知った気がする。