策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
「ウッナ──ミ! ウッナ──ミ!」

 頭上はるか上からエキサイティングな声が聞こえてくる。

 私の髪の毛をぐしゃぐしゃにして、戸和先生も卯波先生に抱きつくなんて。

「ずるい! 私の卯波先生から離れてください!」
「夢みたいだ、ウナミが目の前にいるなんて、ウナミが」
 今の興奮した声はどこへ?

 ギュッと抱きついたまま発する戸和先生の声は、一変してぼんやりほんわか夢見がち。

「離れて! どいて! 私の卯波先生に触ったらダメ!」 
 足で蹴散らそうとしても、びくともしない。

「僕はなんて運がいいんだ、本物のウナミに逢えた」

「私の言うことを聞いて卯波先生から離れてよ! 私のことが好きなんでしょ」
「それとこれは別だよ」

「戸和先生、離れてったら。私のほうが、世界一運がいい人間ですよ。だって卯波先生は私のだから」 

 ずっとずっと逢いたかった想いが、抱き締める力に込められて離さない。

「やれやれ、怒る気がなくなる。どちらから離すか」
 低く済んだ声が耳の奥まで入り込んでくる。

「さあ、離れるんだ」

 二人の興奮した熱気と夢心地に上気した姿とは対照的に、卯波先生が冷静に私たちを自分から引き離した。

「さてと」
 私と戸和先生の目を交互に見る卯波先生が、改めて口を開く。

「きみとはあらためて別の日を設ける」

 理解したか確かめるみたいな卯波先生の言葉に、まだ桜色に染まる戸和先生の顔から、嬉しそうな笑顔がこぼれる。

「今日は久しぶりに彼女に逢えた。だから二人きりにしてくれ、誰にも邪魔をされたくない」
 
 そんなセリフが似合う卯波先生がかっこよくて、頭の中が夢心地。
 まるでスポンジの上に立っているみたい。
 
「彼女をよろしく、しばらくラゴムでお世話になる。それでは失礼」
 私の手を引きながら優雅に歩き出す。

「奴が臨時の獣医師か、困った奴だ」

 私に手を出す戸和先生を怒りに来たのに懐かれて、おまけに私と卯波先生の取り合いになったら困っちゃうよね。

 怒れなくなっちゃったね。

「その通りだ。とっちめてやろうと来たのに」
「私に逢いに来たんじゃないんですか?」

 焼きもちを妬いて、すっ飛んで来たんでしょ?
「焼きもちなんか妬いていない」
 また、私の心を読む。

 隣から、ふふんって卯波先生の笑い声が微かに聞こえた。
「なんですか?」

「必死に奴の足を蹴散らそうとしていたから、俺の教えた通りに」
 夢中だったから覚えていない。

「奴に触れられるより、奴が俺に触れるほうが嫌なんだな」
「私の卯波先生だから」
「だろうな」
 満足気に卯波先生の左の頬が微かに上がった。

「どうして、そんなに余裕なんですか?」
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