策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
 さっきの昼休みの電話では、瞬間湯沸かし器並みにカッカカッカ熱かったのに。
 あんなに焼きもちを妬く卯波先生を見たのは初めて。

「世界中探しても、俺の彼女を口説く勇気がある奴はいない」
 
 厚い胸板を誇示するみたいに張り、真っ直ぐに伸ばした背中は、颯爽としていて堂々と見える。

「卯波先生はマジシャン」
「よそ見をするな」

「私が卯波先生のことを見るたびに、ほかの人々が消えるの。私の視界から」
「だから俺は?」
「マジシャン。卯波先生を見るたび、今でも毎回惚れてしまいます」

「見惚れて街路樹にぶつかっても知らない」

 ぶつかりそうになると、いつも決まって、さりげなく自分のほうに引き寄せてくれるくせに。

 卯波先生のマンションに到着するまでの道のりは、逢えた喜びで飛び跳ねるハートが街中に広がった。

「俺に逢えた喜びは十分に伝わった。奴の話も聞かせてくれないか?」
 困ったように眉毛を膨らませて頬を緩ませている。

 卯波先生のマンションに到着後、疲れている卯波先生を気遣い夕食を作ろうとしたら、作ることが好きだから作らせてって。

 結局、いつもみたいに作ってくれて夕食を済ませてくつろぎの時間がやってきた。
 いっしょにいられるだけで、こんなに幸せな気持ちに包まれるなんて。

 いつかの院長のポンコツ恋愛講座どおりで、誰といるかが幸せを決める。


「久しぶりに卯波先生に逢えたら、どきどきしちゃって。人見知りしちゃいます」

「どれだけ俺に逢いたかった、どれだけ俺のことを好きなのか、ずっと話し続けていたじゃないか」

 自然に私の体を引き寄せて、腕の中に抱き寄せた。
 
「家畜分野のトップの話を聞かせてくれ、貴重な存在だ。小動物臨床医としてのお手並み拝見といったところか」

 久しぶりに逢ったのに仕事の話。アプローチされた話もあることはあるか。

 どっちにしても戸和先生の話ね。心の小さなためいきひとつ。

 いざ話し始めると舌が滑らかに動く。戸和先生がくしゃみをするんじゃないかというほどに。

 あとは症例や処置法とかを卯波先生に習って、自然に互いの病院の話になっていった。

「さて、もうこんな時間か。送るよ」
 寂しさから逃避行するように、世界中のすべての時計を止めてしまいたかった。

 ソファーから立ち上がった卯波先生の無防備な背中を、思わずうしろから抱き締めた。

 ふだんは平然として、平常心を保つ卯波先生が、私の前で初めて晒した姿は、心に突然急ブレーキをかけられたような驚き方。

 強張る卯波先生の背筋が、私の胸のふくらみに固く伝わる。
 お願い、いっしょにいたいの、もう少しだけ。
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