策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
「太陽は哀しんで、月は喜んでます。だって太陽は卯波先生に逢えなくて、月は一晩中卯波先生といっしょにいられるから」

 もう一度強く抱きついたら驚いたみたいで、抱きつく私の体を離して、瞳の奥を覗き込んでくる。

「私も月みたいに卯波先生といっしょにいたい」
 どきどきしながら爪先も心も、うんと背伸びをして、卯波先生の息がかかりそうな距離に近づいた。

「こんなに、わがままに躾けたのは俺か」

「家族以外に、わがままを言えるのは卯波先生だけです。違う、私にとって卯波先生は、家族以上の存在です」

 二人の視線が甘く絡み合い、互いに糸で引き合うように、息遣いが聞こえる距離まで近づいた。

 卯波先生、覚えておいてね。女の子は、好きな相手を試す行動をとるものなの。

「おいで」
 言うや否や、心を固めたように私の手を取り、初めてのドアを開けて、私を部屋に招き入れた。

「誰も入れたことがない寝室だ」
 卯波先生だけを見つめているから、広々とした部屋。

 それしかわからない、卯波先生以外、私の目には入ってこない。

 素直な気持ち、いっしょにいたくて離れたくない。
 でも大胆な行動に、今になって足が震え始める。
 最近は震えなかったのに。それに今までの震え方と違う。

 喜びと怖さが交じって複雑に震える。
 
 真新しいシルクのシーツのベッドに座る卯波先生が、投げかけてくる視線は絡みつくように甘くて熱い。

 その瞳を見つめれば、私の瞳は溶けてしまいそう。

 立ったまま卯波先生と向き合う私には、一秒が十分のように長く感じる。

 大好きな人と、大好きな人の部屋で二人きり。
 なにが起こるかってことくらい想像できる。

 ずっと夢に見ていたことなのに。とっても嬉しいのに。
 でも、いざとなったら。

 私に向けてくれた卯波先生の熱視線に、私の体が熱くなる。

 初めての体の変化に、戸惑いを覚えるし怖さもある。
 どうなっちゃうのか怖いの。

 恋をして嬉しいとか怖いとか、こんなに複雑な想いに振り回されるのを知った。

 ベッドに深々と身を沈める卯波先生は、ふだんと違って、少し背中を丸めてリラックスしていて、私のどきどきとは正反対。

 卯波先生の手にかかったら、どんどん激しく打ち鳴らす私の鼓動を、簡単に止められちゃいそう。

「深呼吸させてください。だって卯波先生、私の息を止めたから」

「緊張しているのか、おいで」
 慣れ親しんだ低く強い声。私は、いつもこの声に安心する。
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