策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
 持て余す長い腕が、私の腰に触れて引き寄せたと思ったら、軽々と左膝の上に座らせるから、すうっと気が遠くなりそう。

「驚いて、このまま気絶してしまいそうです」
「そのときは入院だ、ここに」

 胸もとで人差し指を上に立てて、一周くるりと回す、卯波先生の結んだままの唇が微かに動いた。

「この部屋に?」
「ああ、この部屋だ」
「卯波先生」
 息を吸い込んで言葉を探したけれど、なかなか出てこない。
「どうした?」

 患畜に話しかけるときみたいに、むにゃむにゃした柔らかな声で話しかけてくれたから、うっとり夢気分で意識が遠のいていっちゃう。

「卯波先生の熱い脈が、私の体に触れてます。あの、えっと、鼓動とおなじリズムで、私の体に伝わってくるんです」

 どっくん、どっくんって。めまいを起こしそうな意識の中で感じるの。

「ま、待ってください、違う。今、言ったのは忘れてください、違うんです」

「恥ずかしがらなくていい、俺も健康な男だ。反応するのは、どうしようもないんだ。桃が好きだから」

 考えを振り落とすように、ゆっくりと頭を振る卯波先生。

「子どもだと思って我慢していたのに」
 私のために我慢していてくれたなんて。

 もう、お互いの気持ちを。そして愛する気持ちを確認してもいい時期まできたでしょ?

 卯波先生といたいって気持ちは、自然なことでしょ。愛する人と離れたくない。

「変な気分なんです、こんな気分になるの初めて」
 心が求めれば体は戸惑い、どっくんどっくん鼓動が鳴るから爆発しないか心配。

 卯波先生が、シャツのボタンをひとつ外すたびに、ふだんはスクラブで隠れている厚い胸板や、贅肉がない引き締まった上半身が露になって、恥ずかしくて慌てて目を伏せた。

 でも、二秒だけ。二秒だけ見た視線の先には胸板が。

 サニーの散歩で抱き上げられたときに、薄いスクラブの上から触れた胸板は、やっぱり厚かったんだ。

 そっと肩を抱いてくれたのに、驚愕のあまり卯波先生の膝から飛び上がりそうになって、本当にごめんなさい。

 足もとは、がくがく震えるし、驚きで心臓が激しく動悸する。

 抱き締めてくれて、そのまま二人はベッドに流れるように体を滑り込ませて、そっとシーツをかけてくれた。
 
「徹夜明けのときも震えていた。まだ桃には刺激が強すぎた、大丈夫か?」

 ほどよくついた筋肉の盛り上がった肘枕で心配そうに見つめ、震える私の肩先を優しく撫で下ろしてくれる。

「今日は、ここまでだ」
 起き上がり、にこりと微笑んだ卯波先生に頭を撫でられ、額にキスをされた。
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