策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
 ベッドサイドに座り、卯波先生がシャツを羽織ろうとした。

「ダメだ、やっぱり無理」

 振り向きざまに卯波先生が見つめてきて、ゆっくり首を横に振り、手にしたシャツを宙に放り投げた。

 ふだんは、感情も表に出さない卯波先生なのに、心を乱して情熱が抑圧を突き破ったみたいに、私の体に体を重ねてくる。

「心が恋に奪われると理性が逃げていく」
 
 にこやかに微笑む視線が、私の額や頬や顎先に視線を移し唇を見つめ、軽く口角を上げる。

「愛がショートして発火した、桃と愛し合いたい」
 瞳は切なそうに訴えてきて、熱っぽい声は私の体まで奥底深く熱くさせる。

「華奢で儚げだから、ひやりとする。重みで潰してしまいそうだ」

 そっと覆いかぶさる体を、重くならないようにと支えてくれる両肘のあいだで、私の体を包み込んでくれた。

「ずっと俺だけだと思っていた。桃も、次の段階にいく準備ができていたんだな、こんなにも反応している」

 この胸の高鳴りは、もう抑えられない。

「その潤んだ瞳がきらきらと輝き、俺を捉えて離さない」

 安らいでいるときの優しい目で見つめられて、“その瞳だ”って、いつもみたいに顎で合図をしてくる。

「卯波先生? 降参?」
「ああ、降参だ」
 卯波先生が、困ったように微笑んだと思ったら、次の瞬間には頬に自信たっぷりの笑みを浮かべた。

「もう帰さない、明日まで、ずっとだ」
 私の瞳を交互に見つめる瞳に吸い込まれた瞳は、釘付けになって離せない。

「今、桃といっしょに過ごす時間を大切に最高のものにしたい」
 やっと迎えられた二人の時間。

「逢いたかったです、ずっとずっと」
「だろうな」
「じゃなくて」
 私の欲しい言葉を知っていて、わざと焦らすの。

「桃の秘密がなくなるまで知り尽くしたい」
「じゃなくて......あぁ、恥ずかしい......」
 そんな熱い目で微笑みかけないで、見つめないで。

「これからシーツのあいだで起こることは、俺と桃のあいだの秘密だ」

 かちんかちんに緊張するかと思った体は、卯波先生の言葉と体に包まれてリラックスして、シーツの波の中に、とろけてしまいそう。

「優しくするよ、俺に身を任せて」
 少し照れくさそうに微笑む瞳が揺れる。
 初めて、私に見せた愛しい顔に力が抜けた。

「忘れられない夜にするよ」
「せんせえ」
 卯波先生になら、安心して身を任せられる。

「俺も桃に逢いたかった。どんなに逢いたかったか」
 唇が熱い。

 ──私は卯波先生に抱かれ、溶けるような安堵感の中に落ちていった──
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