策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
第九章 院長との永遠の誓い
 卯波先生と出逢ってからニ年の月日が経った。

 体が心配になるほど働き詰めだから、切実に休んでほしいと願う日々。

 それでも卯波先生は、私を笑顔にするってがんばってくれる。

 だから、私は仕事を確実に自分のものにする努力をし、卯波先生に満面の笑顔を向ける。

 幸せだから、抑えきれず自然に笑顔になるんだけれどね。

 多忙な日々の中、ふたりでいられる貴重な休日には、私の実家へ挨拶に出向いてくれたりもした。

 今日は、改めて卯波先生のご実家にも、ご挨拶にお伺いする日とあって緊張している。

「おはよう」
 いつぶりか久々に逢えた卯波先生のスーツ姿に、動くことができなくなるほど驚いた。

 イケメンどころじゃない、一流モデルもひれ伏して、裸足で逃げるほどのたたずまい。

 すっきりとした品位がある服装をしていて、まるでおとぎ話の王子様みたい。

 本当にきらきらしているってあるんだ。眩しくて、目が開けていられない。

「おはよう」

 凄く美しくかっこいいのに、自分の容姿や外見に興味がないから、本人は淡々としていて気にも留めないみたい。

「三度目だ、おはようは?」

 なにしろ見栄えがよく、品のいい貴公子然とした育ちのよさを醸し出すから、ぽかんと見てしまった。

「なにをしたら、桃は朝の挨拶をする? お目覚めのキスか?」

「おはようございます」
 炭酸が抜けたジュースみたいに、気のない挨拶が口から出た。

 涼しい顔をしていたのに、熱く注ぐ私の眼差しに気づいたのかな。

「桃のご両親に挨拶に行ったときや、セミナーに行くときにも、何度かスーツ姿は見ているだろう?」

 うん、わかっている。でも、今日は一段とかっこいい。

「そんなに見つめるな」って、照れたように髪をかき上げる仕草が美しすぎて、困った笑顔が可愛すぎ。

 厚みのある胸板や贅肉のない腹筋が、真っ白で無地のドレスシャツにフィットし、見事な体の線が描かれていた。

「凄い、測ったようにぴったりです」
「フルオーダーで、テイラーメイドだと言わなかったか?」
 初耳。
 と言うか、さらりと言う?

「欧州仕込みの技術力をもつテイラーとは、代々古くからの付き合いだ」
 
 信頼を寄せるだけあって、道理で体型にぴったりなわけだ。

 卯波先生の説明に、ほうほう、ふくろうみたいな顔と声で感心することばかり。

 シルク百パーセントの生地からボタン、カフスボタン、あらゆるパーツもパーフェクト。
 素人の私でも、一目見て高級な素材だとわかった。

「卯波先生のお肌みたい。肌触りいいですよね? 眠くなっちゃいそうです」
 抱きつきたくなっちゃう。

「シルクに身を包まれると眠くなりません?」
「どうしてそんな質問する? ベッドで証明して欲しいのか?」
「ち、違います!」
「その慌てぶりは、そうだと言っているようなもんだ」

 たしかに卯波先生のベッドはシルクのシーツだけれど。
 なんていうか。

 とにかく恥ずかしいし!

「さあ、行こう」
 当たり前のように荷物を持ってくれて、エスコートしてくれる。

「卯波先生の写真が欲しいです。戸和先生からプレゼントされた写真立てに入れて飾るんです」

 シンプルで飾り気のない戸和先生らしい贈り物。

「奴は立派に、お父様の跡を継いでがんばっているな」
 未だに戸和先生のことを‘奴’って呼ぶんだから。
 まだ昔のことで焼きもち妬いているの。

「最初から、そんな感情を奴に対して持ち合わせていない」
「わかりました」
 クスッて笑いそうになっちゃう。

 つないでる手を握ると、包み込む大きな手が握り返してくる。
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