策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
第二章 心が訴えるって?
その日の夕方、来院したオーナーから坂さんが、受付で小さな箱を受け取り、オーナーは事務的なやり取りをして、支払いを済ませて帰って行った。
箱を持って、なにしに来たのかな。あの箱はなんだろう?
坂さんが箱を持って、入院室に行こうとするから、声をかけようとした。
「今はやめておけ、見ないほうがいい」
院長が慌てて制止して、沈んだ表情で黙って去って行く姿が寂しそう。
いつもと様子が違う、二人とも変だよ。
「卯波先生」
立ちすくむ私が振り返ると、椅子の背もたれに寄りかかり、ゆったりと座っている卯波先生と目と目が合った。
「あの箱は?」
単純に好奇心で気になって、深く考えないで聞いたら、なかなか返事が返ってこない。
卯波先生が高く筋の通った鼻に触れて、長いあいだ黙ったまま。
私の声、小さかったかな、聞こえなかったのかな。
さっきより少しだけ声を上げて、もう一度。
「あの箱は?」
「飼い猫が子猫を産んだが、飼えないから子猫を安楽死させるために持ち込んだ。これは稀なことではない」
卯波先生が重い口を開いた、意を決したみたいに。口調は噛んで含めるように優しい。
ただ私には、唐突すぎて事情が飲み込めない。
あの軽そうな箱は、そんなに重いものなの?
おかしいよ、安楽死の使い方が間違っているよ。
これ以上、治療をしても治る見込みがなくて、患畜をただ苦しめるだけだから、苦痛から解放させてあげるために施す処置でしょ。
この世に生を受けた、健康で元気な子のために施す処置じゃないよ。
「そんなのおかしい、嘘だよ」
胸を締めつけるイメージを、激しく頭を振って打ち消す。
「これが現実だ、目をそらすな、ついて来い」
動物病院で、そんなことがあるのか現実味がないまま、淡々としている卯波先生のうしろについて入院室に入る。
院長の手により、たった数分で処置は完了した。よく長く感じたって聞くけれど、まったく。
嘘みたいでしょ? あっけなかった。
箱を持って、なにしに来たのかな。あの箱はなんだろう?
坂さんが箱を持って、入院室に行こうとするから、声をかけようとした。
「今はやめておけ、見ないほうがいい」
院長が慌てて制止して、沈んだ表情で黙って去って行く姿が寂しそう。
いつもと様子が違う、二人とも変だよ。
「卯波先生」
立ちすくむ私が振り返ると、椅子の背もたれに寄りかかり、ゆったりと座っている卯波先生と目と目が合った。
「あの箱は?」
単純に好奇心で気になって、深く考えないで聞いたら、なかなか返事が返ってこない。
卯波先生が高く筋の通った鼻に触れて、長いあいだ黙ったまま。
私の声、小さかったかな、聞こえなかったのかな。
さっきより少しだけ声を上げて、もう一度。
「あの箱は?」
「飼い猫が子猫を産んだが、飼えないから子猫を安楽死させるために持ち込んだ。これは稀なことではない」
卯波先生が重い口を開いた、意を決したみたいに。口調は噛んで含めるように優しい。
ただ私には、唐突すぎて事情が飲み込めない。
あの軽そうな箱は、そんなに重いものなの?
おかしいよ、安楽死の使い方が間違っているよ。
これ以上、治療をしても治る見込みがなくて、患畜をただ苦しめるだけだから、苦痛から解放させてあげるために施す処置でしょ。
この世に生を受けた、健康で元気な子のために施す処置じゃないよ。
「そんなのおかしい、嘘だよ」
胸を締めつけるイメージを、激しく頭を振って打ち消す。
「これが現実だ、目をそらすな、ついて来い」
動物病院で、そんなことがあるのか現実味がないまま、淡々としている卯波先生のうしろについて入院室に入る。
院長の手により、たった数分で処置は完了した。よく長く感じたって聞くけれど、まったく。
嘘みたいでしょ? あっけなかった。