策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
「サラサラした茶色い髪と瞳は天然、きれいだろ。小鼻には余計な肉がなく、筋のつんと通った鼻筋。目を見張る美形だろ」

「どうして、そんなに浮かれて。院長は、卯波先生のファンかなにかですか? お名前って言ったのに」

「卯波を見る目が、俺を見たときみたいに、にやついてたぞ」
「凄くきれい」
「きっとへらへらが薄気味悪くて、とっとと奥へ引っ込んだんだ」
 へらへらなんかしてないもん。

「本当に卯波、きれいだよな」
 だから外見云々じゃなく、お名前だって。

 感慨深げな言い方。

 特別な感情を含んでいそうで怖いってば。

「院長もきれいですよ」
「俺はきれいなんじゃなくて、美しいんだよ」
 わからないわ、どう違うのか。

「卯波先生って、院長のこと呼び捨てなんですね」

「学生時代からの同級生で親友なんだよ。二年前の開業時に引き抜いた」
 性格がまったく違うけれど気が合うの?

「お二人とも真逆な感じですよね、まるで磁石のSとMみたい」

「なあ、全知全能の神様よ。俺と卯波はサドとマゾか。ちなみに磁石はSとNな。緒花の頭の中は、マゾじゃなくてナゾだよ」

「磁石はSとN、それもありますね」
「それしかねえよ」
「それで、そんな真逆なお二方ですが」

「そうそう、お互いに自分にないものを補い合って楽しんでるんだ。で、どうして、緒花が仕切るんだよ」

「まあ、いいからつづけて聞かせてください」

「性格は違えど、(こころざし)はおなじだ、おなじ方向に向かってる」
「頼もしいバディですね」

「うん。おっ、もうこんな時間。もうケージ内の掃除や給餌しても平気?」
 入院室の奥に向かい、卯波先生に声をかけている。

「そんなに大きな声を出さなくても聞こえる、差し支えない」
 奥から聞こえてきた声は、きびきびしていて隙がない。ピリッとくる。

「よし、出番だぞ、処置中で空いてるケージ内の掃除。あと食器を下げて」
「はい」

「院長、ちょっといいですか?」
「今、行く」
 坂さんの声に、よく通る院長の上げた声が響き、入院室を足早にあとにした。

 入院室の奥から床を踏み締めるように、ゆっくりと卯波先生が登場。

 なになになに、どうしたの? 私、なにか叱られることした?

「処置中で、空いているケージ内の食器を下げて、掃除や給餌をするって宝城が言ったな?」

 事務的な口調に、蚊の鳴くような弱々しい声で「はい」と返事をするのが精一杯。

 いつもの元気どこ行った? 私の元気が迷子になっちゃった。

「ちなみに、なにから着手するつもりだ?」
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