策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
「心が。緒花くんの心が訴えてきた、俺の心に」
言っている意味は、よくわからないけれど、なんだか心が温かくなって、卯波先生の近くにいられることで安心できた。
普通に落ちた患畜に使用したものなら、ここまでは念入りに消毒をしないから、嫌でもレクの命をあっけなく奪い去っていった、感染力の強いテンパーが頭の中を占める。
今回のレクの例は未然に防げた。無念な結果に終わり、残念で下唇を噛み締める。
なにを言ったって、もうレクは戻って来てはくれない。
喉の奥の声にならない唸りが、固く食い縛る歯の隙間から漏れる。
悔しい、どうしてよ、どうしてレクが死ななくちゃいけなかったの?
どうしてオーナーはレクに、ワクチン接種をしてあげていなかったの?
悔やんでも悔やみきれない。
「やりきれない悔しさが込み上げるんだろう? 緒花くんにとっても、レクの死は無念の死だ、そうだろう?」
私と背中合わせで消毒をしている卯波先生なのに、私の心がわかるの?
声にも出さない、表情も見えない二人なのに、わかってくれるの?
「悔しさ以外で、患畜が落ちて気持ちが沈んだり、不安定にはならないか? それは大丈夫か?」
「かわいそうですし、助かってほしい気持ちは強いです。でも、他の患畜は次々に待ってます」
「切り替えができているようだ。心のバランスもとれているようだから安心だ」
「大丈夫です、これからもずっと」
「本当か?」
卯波先生の体が私の方向に向き直り、確認してくる。
「本当です」
「なぜ?」
「だって以前、どうしてもつらいなら私の哀しみをなんとかしてくれるって、卯波先生おっしゃってくれたじゃないですか」
「ああ、言った、覚えていたのか。なんとか楽にする」
卯波先生が、じっと瞳を見つめて深く頷く。
「子猫たちの安楽死のとき、私を苦痛や哀しみから解放して救ってくださって、言う通り楽にしてくださいました」
「痛いほど気持ちがわかるから。それに泣きたいのに我慢しているのは、精神衛生上よくない」
「今は安心なんです、卯波先生がいてくれるから」
嬉しい気持ちに動かされて、自然に笑顔が溢れた。
「レクの容体が急変したときも、誰でもない、私は一直線に卯波先生めがけて走ってました。そのときは夢中で気づきませんでした」
あとになって思い返せば、真っ先に頭に浮かんだのは卯波先生だったし、卯波先生の名前だけを呼んでいた。
どうしても伝えたい言葉が、抑えきれずに口から溢れ出してくる。
「卯波先生は、秋の木陰みたい」
「なぜ?」
「居心地がいいんです。いつも温かく包み込んでくれて、たまに撫でるように吹く、そよ風は心地よくて」
「それが俺なのか?」
「私、大好きなんです」
卯波先生の右の口角だけが、微かに上に動いたような。
声を出して笑わせたいな、モアのようにね。あっ!
「わ、私が大好きなのは、秋の木陰って意味ですよ。その、ええっと、私の大好きなのは秋の木陰ですよ?」
「どう言おうと俺だ」
賢い卯波先生は頭の回転も早いから、なにを言っても無駄。
言っている意味は、よくわからないけれど、なんだか心が温かくなって、卯波先生の近くにいられることで安心できた。
普通に落ちた患畜に使用したものなら、ここまでは念入りに消毒をしないから、嫌でもレクの命をあっけなく奪い去っていった、感染力の強いテンパーが頭の中を占める。
今回のレクの例は未然に防げた。無念な結果に終わり、残念で下唇を噛み締める。
なにを言ったって、もうレクは戻って来てはくれない。
喉の奥の声にならない唸りが、固く食い縛る歯の隙間から漏れる。
悔しい、どうしてよ、どうしてレクが死ななくちゃいけなかったの?
どうしてオーナーはレクに、ワクチン接種をしてあげていなかったの?
悔やんでも悔やみきれない。
「やりきれない悔しさが込み上げるんだろう? 緒花くんにとっても、レクの死は無念の死だ、そうだろう?」
私と背中合わせで消毒をしている卯波先生なのに、私の心がわかるの?
声にも出さない、表情も見えない二人なのに、わかってくれるの?
「悔しさ以外で、患畜が落ちて気持ちが沈んだり、不安定にはならないか? それは大丈夫か?」
「かわいそうですし、助かってほしい気持ちは強いです。でも、他の患畜は次々に待ってます」
「切り替えができているようだ。心のバランスもとれているようだから安心だ」
「大丈夫です、これからもずっと」
「本当か?」
卯波先生の体が私の方向に向き直り、確認してくる。
「本当です」
「なぜ?」
「だって以前、どうしてもつらいなら私の哀しみをなんとかしてくれるって、卯波先生おっしゃってくれたじゃないですか」
「ああ、言った、覚えていたのか。なんとか楽にする」
卯波先生が、じっと瞳を見つめて深く頷く。
「子猫たちの安楽死のとき、私を苦痛や哀しみから解放して救ってくださって、言う通り楽にしてくださいました」
「痛いほど気持ちがわかるから。それに泣きたいのに我慢しているのは、精神衛生上よくない」
「今は安心なんです、卯波先生がいてくれるから」
嬉しい気持ちに動かされて、自然に笑顔が溢れた。
「レクの容体が急変したときも、誰でもない、私は一直線に卯波先生めがけて走ってました。そのときは夢中で気づきませんでした」
あとになって思い返せば、真っ先に頭に浮かんだのは卯波先生だったし、卯波先生の名前だけを呼んでいた。
どうしても伝えたい言葉が、抑えきれずに口から溢れ出してくる。
「卯波先生は、秋の木陰みたい」
「なぜ?」
「居心地がいいんです。いつも温かく包み込んでくれて、たまに撫でるように吹く、そよ風は心地よくて」
「それが俺なのか?」
「私、大好きなんです」
卯波先生の右の口角だけが、微かに上に動いたような。
声を出して笑わせたいな、モアのようにね。あっ!
「わ、私が大好きなのは、秋の木陰って意味ですよ。その、ええっと、私の大好きなのは秋の木陰ですよ?」
「どう言おうと俺だ」
賢い卯波先生は頭の回転も早いから、なにを言っても無駄。