策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
「ご自宅は近いんですか?」

「緊急時に、一刻も早く駆けつけられるように、ラゴムに勤務したとき、近くに引っ越してきた」

「院長は?」
「近く」
「いっしょに住めばいいのに」
「いくら親友でも、それは勘弁してくれ」

「通勤は徒歩だが、ドライブをするときは車を出す」

「院長とですか?」
「宝城と俺を、どんな目で見ているんだ。なぜ男同士でドライブなんだ、きみとだ」

 卯波先生が握る右手に力が入ったから、驚いて思わず握ってしまった。

 恥ずかしい。これじゃあ、握り返したように思われちゃう。

 ますます震えるばかりだし、胸の鼓動は飛び出しそうなほど、全身に響かせながら鳴りつづけるし、足は羽が生えたようにふわふわ浮いてしまいそう。

「ドライブ?」
「二人でいっしょに車に乗り、楽しむことだ」
 そこじゃなくて。

「強引ですよ」
「突入するとは物騒だ」
「GO INじゃなくて強引です」
「おなじに聞こえる」
「押しと熱意が強い意味の強引です」

「どちらの意味も合っている。押しと熱意の強さで、きみの心に突入した」
 親指で自分の左胸を突っついている。

「私の心に突入?」
「遠からず、きみは俺に全面降伏する」

「言いきれますか? その自信は、どこからくるんですか?」
「自信ではない、事実を述べたまでだ」

 事実って。まるで預言者みたい。
 自信っていうより、確定しているように言い切った。

「到着した」
「何階ですか?」
「十八階」
 ブラウン系のタイル張りの落ち着いたマンションを仰ぎ見る。頭を動かしながら、階数を数えてみた。

「十九階建てだ」
「高い」
 ぽかんとしたまま、上を見ていたら「置いて行かれたいのか?」って言うから、それは嫌だと小走りで、卯波先生の隣に並んだ。

 ここに置いて行かれても、家に帰れないから必死。

 共同玄関で鍵を開けた卯波先生が、私をエレベーターに乗せると十八階に到着。

 そのあいだに恥ずかしさのあまり、何度となく手を離そうと試みたけれど、くいっと手首のスナップを利かせて引き寄せられるから、離れられない。

「当たり前みたいに、手をつないでますよね?」
 また、強く握るから抜こうにも抜けない。

「お望み通りだろう、これが自然な状態だ」

 絶対に大声上げて噛みついてやる。

 卯波先生じゃなかったら......ねっ。

「だろうな」
「なにがですか?」

「俺じゃなかったら大声を上げて。ほらもうすぐ降りるぞ」
 卯波先生が言いかけた言葉は、私が想っていたことだよ?

 卯波先生に心を読まれたのは、これで何回目?

「二十七回目」
「え! そんなにですか?」
って、今も読まれたし。

「適当な数字を並べた」
「ひどい、本当にありそうな数字出してきて」

「人は数字を出されると、簡単に騙されるから気をつけろ」

「ひどい」
「降りるぞ」
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