策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
 私の反応を確かめる、余裕綽々の柔らかな唇が、唇に熱い体温を教えてくれる。

 火照りは、瞬く間に全身を赤く熱く燃え上がらせる。
 
「こういうキスもある、わかったか?」

 すべてお見通しで反応を見ながら、気持ちよくしてくれる。
 プライベートでも先生は先生なの。

「さあ、本当に今日はここまでだ、離したくなくなる」

「初めて手をつないで、初めてキスをして嬉しいです」
 恥ずかしくて、俯いた顔が上げられない。

「初めてなら、誰でもよかったのか」 
「またですか? もう。卯波先生だから......恥ずかしい」

「焼きもちだ」
「まさか、卯波先生がですか?!」

「桃が、これから経験する幸せな初めては、すべて俺とだ」 

 卯波先生が、焼きもちを妬くなんて信じられない。
 独占欲が強いのかな。

「私は、卯波先生の初めてのデートの相手でもなければ、キスの相手でもなく、愛した人ではないかもしれない」

 俯けば、なんとか自分の気持ちを伝えられそう。

「でも卯波先生の、すべての最後の人になりたいです」
「安心しろ、叶えてやる、保証する」

「卯波先生ったら、私から心もキスも奪いました。でも、なにも失ってない。奪ったのに逆に愛を与えるなんて、どんな泥棒?」

「手口が鮮やかな腕利きのいい怪盗だ。奪ったら最後、ずっと守りつづけ、愛を捧げる」

「かっこいい」
「真剣だ。震えるほど好きにさせたから責任がある、もう離せない」

「離れたくない」
「俺からは離れていかないから」
「絶対に約束してください」

「そんなにくっつくな、手離したくなくなる、ダメだ、そろそろ送る」
「もう?」

「桃は、無自覚に俺の理性を煽る。今、帰さないとどうにかなりそうだ」

 卯波先生が、そんな風になるなんて想像がつかない。

「今日は帰す、送る」
 卯波先生の腕に包まれたまま、黙って俯く。嫌だ嫌だ、まだいっしょにいたい。

「そんな寂しそうな顔をするな、桃と距離は離れても、ここからは離れない」

 自分の胸に人差し指をあてたと思ったら、一瞬でカーペットから、私を抱き上げて立たせた。

「凄い、あっという間で力持ち」

「ふだんは、超大型犬も抱えているんだ。小さくて華奢な桃を抱き上げることぐらい容易(たやす)い」

 また荷物を持ってくれる、本当に世話好きなんだ。

「夜風は体に毒だ、シャツを羽織れ」
「ありがとうございます」
 シャツの袖はぶらぶらで、長い裾はまるでワンピースみたい。
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