策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
 心が晴れて安堵でいっぱい。

「嘘?」
「前に、もう二度と送るって言わないって」
「これから先と言ったか? あの日限定だ」
 紛らわしいな、まったくもう。

「曖昧な発言で悪かったな」
 また、心を読まれた。苦笑いで否定するしかないよ。

 立ち止まった卯波先生が口を開いた。

「ここか?」
 もうマンションの玄関に到着しちゃった。幸せな時間は過ぎるのが早く感じる。

「何階だ?」
 目を見張る美しいEラインが、マンションを仰ぎ見る。

「三階です」
「早く行け」
「卯波先生」
 卯波先生の右手を、両手で握りしめて見上げる。

「近い将来、さよならを言わなくてもいい日が来る。そうしたら夜の挨拶は、俺の腕の中に抱かれて、おやすみだけだ」

 涼しい顔で熱いことを言ってのけるから、私の胸のどきどきが始まった。

「また、卯波先生に逢うのが待ちきれない」

「まだいっしょにいるだろう、一晩寝たら逢える」
 いとも容易く、卯波先生の左腕に引き寄せられ、厚い胸に抱かれた。

「そうして、また震えて煽る」

 仰ぎ見ていた卯波先生の顔が、少しずつ近づいてくると、いつの間にか私は、自然に瞳を閉じて、卯波先生を待ちわびた。

 背が高い卯波先生だから、キスまでの距離も時間も長い。

 くちづけを待つ顔を見られていると思うと恥ずかしくて、閉じる瞼が微かに震えてしまう。

 焦らされて待たされて、私のどきどきは、どっきんどっきん大きくなる。

 頬に触れられると、体が熱くなって、そのまま溶けて、アスファルトに吸い込まれていきそう。

 私の口もとに熱い息がかかり、唇に柔らかな体温を感じる。

「卯波先生の存在が、私を震わせてる」
「だろうな」
「震えるのは、卯波先生のことが大好きだから」
「だろうな」

 長身が私を抱え包み込むように、覆い被さって抱き締めていたけれど、名残惜しそうに自分の体から私の体を離した。

「入れ、危ないから見送らなくていい」

 別れを惜しむように手を振ると、マンションに入るのを見届けた卯波先生が、安心したように帰って行った。 

 うしろ手にドアの鍵を閉め、靴を脱ぎバッグを置き、抑えきれない歓喜に満ち溢れてフローリングにへたり込む。

 安心感を与えてくれたり、いつも気づいてくれたり守ってくれるスーパーヒーローが私を好きなの?

 いつも私を危機から救ってくれる、あのスーパーヒーローが?
 まさか嘘でしょ、冗談でしょ、信じられない。
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