策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
「朝から、しかも職場で堂々と?!」
 院長が派手に驚いてみせる。

「俺が触れたときだけ震える。震えるほど好きだそうだ」

 すぐに卯波先生は手を離したけれど、私は震えが止まらないことが恥ずかしくてたまらない。

「本当かよ、どれ、俺が試してやる」
「宝城、無粋だ」
 院長の声に、冷静に制止する卯波先生の声がかぶる。

「見たか緒花」
 笑顔で私を見て、同時に楽しそうに卯波先生を指さす。

「ふだんは、どこ吹く風って顔してるけど、卯波の独占欲と嫉妬は、一度火がついたら大変だぞ、相当覚悟しておけよ」

 院長の嬉しそうな笑顔は、卯波先生とは熟知の間柄と言いたげ。

 隣を見上げれば、焼きもちとは無縁だって取り澄ましたような横顔が、傍観者を決め込んでいる。

 私は、ちゃんと覚えているもん、卯波先生が焼きもち妬きってことをね。

「うちで、しっかりと緒花を即戦力に育て上げて、卯波には安心して、院長になってもらわないとな」

「ラゴムは軌道に乗りましたし、卯波先生は院長になる時期に差しかかってきましたね」
 坂さんが院長を仰ぎ見る。

「軌道に乗ったと、確信がもてるまでは離れない」
 院長と坂さんが同時に、卯波先生に視線を馳せた。

「卯波」
「なんだよ」
「らしいよな、そういうところが慎重な卯波らしいよな」

「宝城の信条だって、念には念をだ」
 片側だけ口角を軽く上げて微笑み合っちゃって、二人とも本当に仲良しさん。

「もう卯波だって確信してるだろ、ラゴムは軌道に乗った、俺に気を遣うなよ」
「気なんか遣っていない」

「とっとと出てけ。俺が出て行けって言うまで、居座るつもりだったよな」

 卯波先生の肩を叩く院長が、人懐こい笑顔を浮かべれば、卯波先生はゆったりとした優しい微笑みを浮かべる。

「そのときは、緒花さんも連れて行くんですか?」
「連れて行きます」

 坂さんの目をじっとみつめる意志の強い横顔に目を奪われちゃう。
 きっぱりと言いきって、なんてカッコいいの。

「そしたら緒花に」
 いきなり、院長の視線が私に向いてきた。

「緒花、なんて顔してんだよ、ひょっとこかよ」
 不意打ちの院長に、なんの返しもできない。

「美形の卯波の顔見りゃ、当然見惚れる。緒花がまぬけな顔になるのはわかるけどさ。卯波、きれいだもんな」

 言い終わるや否や、院長が卯波先生に視線を馳せる。

「見るだけならいいだろ」
「じっと見るな、気色悪い」

 院長ったら卯波先生をからかって、気が済んだみたい。

「さっきの話な」
 さっきの話って、どれ?
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