策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
「緒花に受付、検査、オペをスパルタで叩き込むか」
「俺が、院長になってから育てる手もある」

 最初は付き合っているって事実に、院長も坂さんも口ぽかんだったのに。

 今は付き合っていることよりも、いつの間にか話が変わっている。
 三人が、私の将来を真剣に考えてくれている。

「動物看護師二年目で、知識と経験がまだまだでも院長夫人になった方もいる。緒花さんなら、やっていける」

「それより、なんの知識も経験もない素人が院長夫人になって、仕事してる動物病院もあるぞ」

「あ、そういえば隣町の動物病院の院長夫人がそうですね」
 院長と坂さんの話が、ピンポン玉みたいに弾んでいるけれど。

「院長夫人って誰が、私がですか?」

「驚くことはないわ。今も言ったけど、動物看護師経験なしで、院長夫人になることは珍しいことじゃない」

 や、ここは私に驚かせてくださいよ、三人とも当たり前のように話しているけれど。
 
 その、院長夫人っていうの。

 三人が考える人生設計は、卯波先生が院長になる。私、そこで動物看護師をする。

 すっかり、話が出来上がっている。

 緒花 桃ではなく卯波 桃として。

「緒花さんは、受付関係は診察の予約や備品の発注ができる。あとは、ソフトがしてくれるし簡単だから」

 坂さんは、いつでもなんでも始めるときは、簡単って、さらっと言う。

「あとは、オーナーからの質問や病気の説明とかは、知識と経験。大丈夫、緒花さんならできる」

 坂さんに言われると、暗示にかけられたようにリラックスするし、いつもスムーズにできちゃう。

 坂さんに言われたんだから、できないわけがないってね。

「スタッフの中では新人だが、オーナーに新人は通用しない。オーナーにとっては、すべてのスタッフがプロだ」

「な、緒花。卯波の口は激辛で小言が多い。覚悟しておけよ」
「私を想っての忠告、ありがたく耳を傾けます」

「そんなの最初だけだ。二年もしてみろ、小言がうるさいってなるぞ。おい、見てみろ、卯波の得意げな顔」

「俺が選んだパートナーだ、素直で可愛いげがある」
「学生時代から、お前の小言に文句ひとつ言わずにいる俺も、素直で可愛げがあるよな」

 体ごと卯波先生に向く院長って、喜び方までわかりやすく素直。

「そうそう、オペはオーナーから承諾を得られた患畜のオペに入って、最初は坂さんの機械出しの助手として学べ」

 真顔になった院長。本気で考えてくれている。

「血検は、今から早速できる。卯波、入院患畜の処置に取りかかろう」

「院長、坂さん、ちょっと待ってください」  
 士気が上がる三人がなにごとかと、いっせいに私に注目する。
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