策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
「もう、いいだろう、仕事に取りかかろう」
院長と卯波先生のあとを追うように、入院室に行った。いよいよ本格的に始まる。
先に洗濯機を回して、患畜の世話や掃除を終わらせたら、院長から声がかかった。
「採血するから静脈確保して。血検は卯波に教われ」
もう保定は大丈夫、静脈確保もできる。
「卯波先生は、処置が終わって検査室ですか?」
「うん、行ってる。茶色いスピッツは、よく振って行け。すぐ血液が固まるぞ、急げ」
返事より先に足が動き、入院室から検査室に向かうと、待ってましたとばかりに淡々と抑揚のない声の指示が飛んでくる。
「茶色のスピッツは、自動血球計数器に。紫色のスピッツは遠心分離」
すぐさま茶色のスピッツを、自動血球計数器にセットした。
「なぜ、茶色のスピッツを無心に振って持って来た?」
「院長が血液が固まるから、よく振れって」
「スピッツには抗凝固剤が入っている。抗凝固剤とは?」
「血液を固まらなくさせる薬剤です」
「正解」
「ああああ!」
「またガード下のような、けたたましい声を上げる。宝城とおなじだ」
「かつがれた」
「血液を固まらせないように、スピッツを振るなんて、いったい、いつの時代だ。ここを使え、ここを」
真顔で血検用紙に目を落としたまま、こめかみにしなやかな指先をあて、二度軽く突っついている。
私をからかってばかりの院長! それに冷静沈着に流す卯波先生!
二人とも見てなさい、いつか見返してやる。
その後も血検は次々に入り、だいぶ鍛えられた。
いきなり新人で入り、狂犬病予防ワクチン接種とフィラリアの怒涛の日々を乗り越えられたんだ。
だから、なんだって平気、私にはできる。
血検が終わり、入院室に行くと、処置を終えた院長が嬉しそうに、次々に表示されるスクリーンをチェックしていた。
「どうだった?」
「院長、大丈夫です。私、いけます」
「たいへんよくできました」
院長が満足げに微笑んで、すぐにスクリーンに視線を移した。
「白血球が上がってきたな、順調」
「私がやった血検です」
「よくがんばった」
「そういえば、またかつぎましたよね」
院長がスクリーンから、私に視線を向けてくる。
「なにを?」
「誰をですよ」
「俺がかつぐのは、緒花しかいないな」
「院長の指示通り、スピッツをよく振って持っていったら、卯波先生がきょとんとして、『なぜ振っているんだ、いつの時代だ』って」
「よかったな、きょとんとした卯波の顔を見られるなんて貴重だぞ」
「見たのは二回目ですよ」
「へえ、そうなのか」
「で、どうでもいいですよ。院長は私をからかってばっかり」
「打てば響くから、からかい甲斐がある」
「私には、やることがあるんですよ」
「俺は外来だ」
瞬く間に時間は過ぎて、午後の患畜の世話が終わって、深いため息が漏れた。
今日も一日終わった。
ふとした瞬間、横顔に熱く長い視線を感じるから、視線の先に顔を向ける。
院長と卯波先生のあとを追うように、入院室に行った。いよいよ本格的に始まる。
先に洗濯機を回して、患畜の世話や掃除を終わらせたら、院長から声がかかった。
「採血するから静脈確保して。血検は卯波に教われ」
もう保定は大丈夫、静脈確保もできる。
「卯波先生は、処置が終わって検査室ですか?」
「うん、行ってる。茶色いスピッツは、よく振って行け。すぐ血液が固まるぞ、急げ」
返事より先に足が動き、入院室から検査室に向かうと、待ってましたとばかりに淡々と抑揚のない声の指示が飛んでくる。
「茶色のスピッツは、自動血球計数器に。紫色のスピッツは遠心分離」
すぐさま茶色のスピッツを、自動血球計数器にセットした。
「なぜ、茶色のスピッツを無心に振って持って来た?」
「院長が血液が固まるから、よく振れって」
「スピッツには抗凝固剤が入っている。抗凝固剤とは?」
「血液を固まらなくさせる薬剤です」
「正解」
「ああああ!」
「またガード下のような、けたたましい声を上げる。宝城とおなじだ」
「かつがれた」
「血液を固まらせないように、スピッツを振るなんて、いったい、いつの時代だ。ここを使え、ここを」
真顔で血検用紙に目を落としたまま、こめかみにしなやかな指先をあて、二度軽く突っついている。
私をからかってばかりの院長! それに冷静沈着に流す卯波先生!
二人とも見てなさい、いつか見返してやる。
その後も血検は次々に入り、だいぶ鍛えられた。
いきなり新人で入り、狂犬病予防ワクチン接種とフィラリアの怒涛の日々を乗り越えられたんだ。
だから、なんだって平気、私にはできる。
血検が終わり、入院室に行くと、処置を終えた院長が嬉しそうに、次々に表示されるスクリーンをチェックしていた。
「どうだった?」
「院長、大丈夫です。私、いけます」
「たいへんよくできました」
院長が満足げに微笑んで、すぐにスクリーンに視線を移した。
「白血球が上がってきたな、順調」
「私がやった血検です」
「よくがんばった」
「そういえば、またかつぎましたよね」
院長がスクリーンから、私に視線を向けてくる。
「なにを?」
「誰をですよ」
「俺がかつぐのは、緒花しかいないな」
「院長の指示通り、スピッツをよく振って持っていったら、卯波先生がきょとんとして、『なぜ振っているんだ、いつの時代だ』って」
「よかったな、きょとんとした卯波の顔を見られるなんて貴重だぞ」
「見たのは二回目ですよ」
「へえ、そうなのか」
「で、どうでもいいですよ。院長は私をからかってばっかり」
「打てば響くから、からかい甲斐がある」
「私には、やることがあるんですよ」
「俺は外来だ」
瞬く間に時間は過ぎて、午後の患畜の世話が終わって、深いため息が漏れた。
今日も一日終わった。
ふとした瞬間、横顔に熱く長い視線を感じるから、視線の先に顔を向ける。