策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
「桃、お疲れ。早く着替えて来い、帰るぞ」

 卯波先生は、私の疲れなんか一気に吹き飛ばしちゃう。

 抑えきれない笑顔で、大急ぎで更衣室に駆け込み着替えを済ませて来た。

「こんなに急いで」
 しなかやな指先から、さらさらと滑り落ちる、柔らかな髪を優しく整えてくれる。

 この、撫でなでのご褒美が嬉しくて、今日もがんばれた。

 走り回って、くたくたな足なんか軽やかに走れそうな気になるんだから、卯波先生の力って凄い。

 外へ出て三分ほど歩くと、さりげなく手をつないでくれた。

「早く、こうしたかった、嬉しいです」
 胸弾み、踊る心を素直に打ち明けた。

「だろうな」
 クールに澄ました顔と口調だけれど、大きな手は強く握り締めてくる。

 まるで、手と手で会話をしているみたい。

 今日のできごとや他愛ない話を、ふんふん頷きながら聞いてくれる。

 ときには、話のつづきを促したり、絶妙なタイミングで相槌を打ったり、聞き上手だから私をとっても気持ちよくしてくれる。

「明日、スイカズラを見に行くか」
 ぼそっと呟いた卯波先生の急な提案は、聞き間違いじゃないよね。

 突然のお誘いに、まじまじと卯波先生の顔を見つめる。

「信じられないと顔に書いてある。本当だ、明日」
「嬉しい、行きたいです。花が好きなのも覚えててくれたんですね」

 初めて二人で出かける。

 心が嬉しいよって叫び、まるで音符のように喜んで弾む。

「迎えは何時がいいんだ?」
「十一時くらい」
「わかった」
「花散策、楽しみです。四季を感じられるから、花も大好きです」

「花もいい、ちょうどスイカズラは時期だ」
「草花や自然の香りや風景が大好きです」
「五感に感じる心地よさが、いっしょだ」

「卯波先生も好きなんですね、嬉しい」

「これから、いっしょにおなじ景色を見て香りを感じ、それがお互い心地よく思えるなんて幸せだ」

 まっすぐに前を向き、歩を進める姿が眩しくて、先を見据えるように、凛とした横顔に目を奪われる。

「よそ見をするな」
 照れくさそうな口調は、まるで起伏のない平坦な道のよう。

 前を歩く姿は、何度も訪れている人のように、足取りに迷いがない。

「もう、うちまでの道順を覚えたんですか? 私の説明なしで歩いてる」

 私の言葉に、顔を半分歪めて苦笑いを浮かべている。

「一度で覚えた」
「凄い」
「凄くない」
 横にゆっくり振る、首の上にある美形は苦笑いのまま。

「方向音痴の桃といっしょにするな」
 ふだんはムキになるけれど、今はひとつ気がかりなことがあって上の空。

「あのですね」
 言葉足らずで、上手く想いを伝えられない。

「言い出しにくかったのか、これからは気にしないから言え。車は酔ってダメなんだな」

「いつも、どうしてわかるんですか?」
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