策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
第四章 卯波先生の秘密
 翌朝、どきどきしながら朝を迎えた、生まれて初めてのデート。

 昨夜から、なにを着て行こうか迷いに迷い、鏡の前で脱いでは着ての繰り返し。

 玄関のインターホンが鳴ったと同時に、誰かに叩かれたみたいに、肩がぴくんと上がり唾を飲み込む。

 恐るおそるモニターを覗くと、そこにはニコリともせずに、いつもの澄ました顔。

 待ちわびて小走りで出て行くと、今日の青空みたいな、青いシャツに白いコットンパンツで、髪色に合わせたような薄茶のローファーで、卯波先生が立っていた。

「おはよう」
 卯波先生の挨拶に大きく頷く。
「挨拶はどうした?」
 びっくりして喉が塞がっちゃって、声が出ない。

「鍵」
 したした、ちゃんとした。卯波先生の言葉に頷くだけで精一杯。

「しっかりと寝たのか?」
 思いきり唾を飲み込み、大きく頷く。

「さっきから、なにを驚いている?」
 さりげなく私の手をつなぐと、駅までの道のりを歩き出した。

「おはようございます」
「今か、おはよう」

「カジュアルなのに、革靴だから上品だなあって見惚れてました」
「だろうな」

「こんなにきれいな、青空みたいなシャツ見たことないです」

 着ている人を見たことがない色味だと思ったら、海外ブランドなんだって。

 どこのかと聞けば「ナポリ」と答える。イタリアじゃなくて、あえてのナポリ。

 大したことないって、多くを語らず謙遜するけれど、きっとシャツやコットンパンツも高級なんでしょう。

 駅に着いて、電車に揺られること三十分ほど。
 引っ越ししてきてから、初めての駅に降りて、ごった返すホームに驚いた。

「人の多さに、学生時代を思い出しました」
「離れるな」

 人波の中を守るように私の前を歩き、つないだ手を離すまいと、私の右手を握る左手に力が入っているから、守られているって実感する。

 卯波先生の足並みに揃えて、必死について行かないと、はぐれたら確実に迷子になっちゃう。

 駅前は、木々や草花が植えられ広々としていて、道行く人たちの洋服や身につけているものは、どこか上品な雰囲気を醸し出す。

「さっきの人並みが嘘みたいに、時間がゆったり流れてますね」
「違う街に来たようだろう?」

「はい。私には、こっちが合ってます」
「だろうな」
 駅を少し歩くと、豪邸が建ち並ぶ閑静な屋敷町が目の前に広がった。

 ちょっと待って、凄い光景。

 高い塀の上からは鬱蒼とした木々が見え、自転車やバイクなんか走っていない。

 優雅に通り過ぎるのは、ハイグレードな乗用車ばかり。
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