策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
「それはどうかな」
 また、はぐらかす。

「はぐらかしているわけではない、気づいたら、桃にはオンになっていた。だから、わからない」

 真顔で、ゆっくりと首を横に振っているから、本当に自分でも知らないうちにだったんだ。

「とにかく、桃の心を受け止められないことはない」

 嬉しくて、思わず見上げて微笑むと、きれいなEラインの口もとが微かに緩んだ。

「平和や喜びのエネルギーに包まれている人やポジティブな人といると、猛烈に快適だ。まさに、宝城や桃は快適にしてくれている」

「出た、院長大好き卯波先生」
「隣で、ずっと笑っていてくれ、その屈託のない顔で」
「はい!」
「桃の笑顔が癒しだ」

「私を笑顔にしてくれるのは家なんです」
「俺じゃないのか?」 
 がっかりした顔、初めて見た。

 落胆ぶりがかわいそうになったから、すぐに話した。

「毎日、家に帰りたくなる私の家って、卯波先生の腕の中」

 言うや否や、反応が早い持て余す長い腕が、安堵の表情を浮かべて、私を強く抱き寄せた。

「なんだ、ここか、ここだったのか」
「感じ取れませんでしたか? そうです、ここです」

 花々の甘い香りが鼻腔をくすぐる、木漏れ日が射す園路でキスが降り注がれる。

「どうしよう」
「どうしようとは?」

「これからずっと、花の甘い香りや花を見るたびに、この甘くてとろける柔らかなキスを思い出しちゃう」

「困っているような顔には見えないが?」
 耳もとが熱くなって、涙が溢れそうになった。

「腰が抜けているじゃないか、刺激が強すぎたようだ」
 私の背中を優しく撫でた卯波先生の手が、肩を抱いてくれて歩き出す。

 卯波先生のことが大好きで、涙が出てきそうになった。

 人を好きになると、こんなにも感情を揺さぶられるの?

「桃の存在は、俺を変えたほど大きい」
 私もよ、私だっておなじ想い。
「だろうな」
 憎らしいほど自信満々なんだから。

「それに自然。空、山、海、植物、動物だ。それに子ども。これらは猛烈に快適で、みるみるうちに元気になる」

 よかった、また元気になった。

「草木の落ち着いた佇まいを見ると、自然と心がリラックスして快適になる」

 だから、ラゴムで最初にスイカズラの話をしたとき、花が好きか聞いたら『快適』って答えたんだ。

 『快適』って答えた人には、出会ったことがなかったから不思議だった。

「嗅覚が敏感なんだ。食べものや飲みものを楽しんだりすると、大きな喜びに変わる」

「私といっしょですね」
「桃のはエンパスではない、ただの食いしん坊なだけだ」
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