策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
 冷静沈着な指摘が、卯波先生らしくて返す言葉もない。

「花の匂いを嗅いだりすることも、大きな喜びに変わる」

「卯波先生にとって、さっきの庭園は最高の場所ですね」
 自信があるひらめきに、私の頭の上では豆電球が光った。

「ああ、そうだ。見上げれば真っ青な空、そして木々の自然に囲まれ、甘い匂いを放つ花々が競うように咲き匂う」

 私たちは思いを馳せるように、青空を見上げた。

「まさに天国だ」
「私にとってもです、ひとめで大好きになりました」

「もっと、さらに大好きになった。これからは隣に、ずっと桃がいるから」

 きゅっと腰を引き寄せる、澄ました美しい横顔を仰ぎ見た。

 澄ましたって無理なんだから、目も頬も緩んじゃって。

「すでに、桃にカミングアウトしたから言う、澄ましてはいない」
 心を読まれた。貴公子みたいに、きりりとした顔で。
 澄ましていないんだって。地顔が澄まし顔なのかな。

「それだったら、今、微笑みましたか?」
「ああ」
 なにを、そんなに驚いているって顔で、片方の眉をちらりと上げた。

「桃は?」
「澄ましてませんよ」
「そっちじゃない」
 どれ、なに、そっちじゃない私って、どこのどっちの私?

「これからは桃の隣に、ずっと俺がいる」 
 あああ、そっちの話か。私だって、卯波先生とおなじ想い。
 だから、

「庭園が大好きです」
「と?」
「と?」
 “と”って、なに?

「鈍感。いつまでも桃の隣にいる、俺のことが大好きなんだと聞いたんだが?」

 黙って俯いて、卯波先生の腕に手をからませた。恥ずかしいんだもん。

「庭園と卯波先生」
「が?」
「大好きです」
「だろうな」
  
 言わせられるから恥ずかしくて、顔が熱くなる。

「そうそう、そうです、もちろん、院長には話していらっしゃるんですよね、親友だから」

「恥ずかしいから、ごまかしたつもりか。で、エンパスのことを宝城にということか?」 

「そうです、親友の院長には話していらっしゃるんでしょ?」

「ところが」
「話してないんですか?」
「カミングアウトついでに白状する」

 なに改まって、まだなにかあるの? そんなに重いことを白状するの?
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