転生した人魚姫の奮闘とその結末
(そうよ! 私は物語の先を知っている! 死ぬ気で王子様に迫ればよくない? あんなにアピールしたんだから、物語と違って、私の顔を覚えているわよね?)

「決めた! 西の魔女のところに行くわ」
「はあ? だから、ダメだって」
「もう決めたの。オーフェン、今まで仲良くしてくれて、ありがとね」

 私は親友の顔を感慨深く眺めた。
 
(カメとこんなに仲良くなるとは思っていなかったわ。これで見納めね)

 しんみりしていると、オーフェンが声を荒げた。

「今生の別れのようなことを言うなよ!」
「たぶん、もう会えないから」
「西の魔女のところに行くなら、俺もついていく!」
「え?」

 思ってもみない言葉に、目をパチクリさせる。
 
「なにをする気か知らないが、サーナは言い出したら聞かないからな。こっそり消えられるよりはいい。俺も行く!」
「ほんと〜? うれしい! 実はちょっと怖かったんだよね。さすが親友!」
「怖いならやめろよ……って、聞くつもりないな?」
「さすが、わかってる!」

 私たちは顔を見合わせ、笑いあった。


〜〜〜…〜〜〜…〜〜〜…〜〜〜


「それで、わしになんの用だい?」

 そう聞きながら、ニヤリと魔女は笑った。
 ちらっと付き添いのオーフェンにも視線を向ける。

 オーフェンと私はこっそり宮殿を抜け出して、西の魔女のところに来ていた。
 噂よりはフレンドリーに家の中に入れてくれた魔女は、単刀直入に聞いてきた。
 私も躊躇なく魔女に願いを告げた。

「魔女様、私を人間にしてください!」
「なっ、サーナ!」

 私の言葉に魔女は笑みを深め、オーフェンは慌てた。

「よく考えたのかい? 一度、人間になればもう簡単には戻れないぞ?」
「わかってるわ」

 私ほどそれを理解している人はいないわ。
 大きくうなずくけど、オーフェンが私の袖を噛んで、くいくい引っ張る。

「ダメだ、サーナ! 姉姫様がたに言ったのか?」
「言うわけないじゃん。許してくれるはずもないし。ちゃんと手紙を書いてきたわ」
「人間になって、どうするつもりだ?」
「王子様のところに行くのよ」
「王子様?」

 言葉にすると妙に恥ずかしくて、顔が熱くなる。
 つい素っ気なく言ってしまう。

「あなたには関係ないわ」

 それを聞くと魔女はニヤニヤとして言った。

「そうさな。カメには関係ない。それで、お嬢ちゃん、代わりになにをくれるんだい?」
「真珠や珊瑚、宝石もあるわ」
「わしがそんなもので満足しないと知っておるだろう?」

 念のために言ってみたけど、やっぱりダメだった。
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