貢ぎ物の令嬢ですが、敵国陛下に溺愛されてます!~二度目の人生は黒狼王のお妃ルート!?~
 ナディアは尾に触れるのをやめ、ゲルハルトと少し距離を置いて隣に立った。

 手すりにもたれて、フアールで見るのとは違う夜空を見上げる。

 澄んだ冷たい空気の中で見る星の瞬きは眩しかった。

「私はあの国で王妃だったの。だけど幸せになれなかった。私以外の人を好きになった夫は、私を邪魔者だと思ったのね。そこにいるのにいないような扱いをされて、最後は身に覚えのない罪をかぶせられたわ。そして私は、狭くて黴臭い塔の中で死んだの」

 前世の記憶は、今世で生きるうちに薄れつつある。

 夢だったのではと思うこともあったが、灰の塔で感じた悲しさはたしかに現実のものだった。

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