貢ぎ物の令嬢ですが、敵国陛下に溺愛されてます!~二度目の人生は黒狼王のお妃ルート!?~
 頬を濡らす涙を振り払うようにして駆け、道を舗装する石につまずき勢いよく転ぶ。

 すぐに立ち上がれるはずなどなかった。

 既にふたりが恋仲にあるなら、自分はどうすればいいのかという思いで頭がいっぱいになる。

(死にたくない。またあんな死に方はしたくない……!)

 顔が汚れるのも構わず地面に顔を押しつけ、歯を食いしばった。

 ジャンの気を引かねばならないのに、どんな手段を使えばかなうのかがわからない。

「今度は手を貸したほうがよさそうだな」

 泣き声を噛み殺していたナディアの耳に、夜に紛れるようなささやきが落ちる。

「お願いです。放っておいてください……」

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