貢ぎ物の令嬢ですが、敵国陛下に溺愛されてます!~二度目の人生は黒狼王のお妃ルート!?~
 涙を堪えようとしながら泣きじゃくるナディアの頬に、ゲルハルトの指がそっと触れた。

「今のおまえには他人が必要だろう」

「え……」

 その優しさは今のナディアにひどく染みた。

 人間嫌いの獣人でさえ、こうして気を遣ってくれる。婚約者のジャンがどれほどひどい男なのか際立つようだった。

「どうしてなの?」

 ナディアはゲルハルトに頬を拭われながらしゃくり上げた。

 心は二十一歳だというのに、ずっと弱音を吐けなかったせいで子供のように泣いてしまう。

「今度こそ生き残るって決めたの。なのにきっとうまくいかない……」

「少し落ち着け」

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