サレ妻は永遠の痛みに晒される
3、宥(なだ)める
3、♢♢♢(なだ)める♢♢♢



彼とは大学で出会った。
私の初恋の人。
もちろん初めて付き合って、私は彼に一から体を開かれて、彼用に作り上げられた。
経験のあった彼に全部教えられた。

付き合い始めた時。
2週間でキスして、深いキスは想像もつかないもので、驚いてしまって、何が起こったか分からない私を彼は大事にしてくれた。

友達の家に皆で泊まった時。
彼が隣に寝ていて、我慢できないと執拗な熱い手で私に触れて、それから声を殺して耳元で、ホントは今、君が欲しいんだと囁いた。

彼にとってハジメテの行為もいくつか私として、彼も『ちゃんと付き合った子は君だけなんだよ』と言った。
君は美味しいね、君以上の子なんていないと何度も何度も愛し合った。


『相性がいいんだ、オレ達』


と言われて意味がよく分からなかったら、


『ダメだよ、他の男とこんな事したら』


と少し怒ったみたいに熱く(ささや)かれた。


『キミは他の人じゃ満足出来ないよ。オレのもんだから』


と刻みつけるように抱かれた。

 あなたが言ってたんじゃない

私は彼の形になっていた。
身も心も。
彼は私の半身だったし、彼も私が半身だった。


「だから謝っている、後悔している。わかったんだ、はっきりと君を愛してる。二度はない。
全然君と違った。虚しい後悔しか感じなかった。一度だけだよ。気まずいだけで、話すこともなかった。別れてそれきりだ」


 どうして


「これ以上オレはどうしたらいい? 」

 
 じゃなんで⋯⋯ 。

壊れてしまったものは、もう元には戻らない。無理やりカケラを合わせても、跡は無くならない。
傷ついた心も、目に見えないかもしれないけれど、その傷はずっと残り疼き続ける⋯⋯ 。

この先どちらを選んでも痛みは消えないだろう。

 私は彼の手を(つか)んでいて
 彼の姿を目に移しながら
 でも彼を見ていなかった

いつもみたいに、彼に身を預けて愛されたら⋯⋯ 。
でもそれは信じていた今までの2人ではない。

いま、手を離して永遠に彼から私をとりあげてしまえば⋯⋯ 。
(2度と戻れないほど彼の心も私と同じように傷つけられるだろうか⋯⋯  )
と、思った、
でも、そうして私も、失った愛に苛まれ続けるだろう。

もし、

彼が誰かと、

幸せになったら、

 私以外の

 誰かと

()きむしるような焦燥で汗と涙が垂れていた⋯⋯ 。

壊れているんだ。

2度と治らない。

いくら何かで埋めても、誤魔化しても、この痛みからは一生逃れられない。

そして、その原因である彼の不倫。

なんでって、なんでそんなことしたの? 

なんでふみ止まらなかったの? 

なんで心も体も動いたの? 

なんで、なんで、なんで、なんで、





泣き叫んでいた。
彼の体が傷ついたかもしれないほど、彼の体に(すが)りついて、背中を叩いた。
彼の皮膚を愛しくて引っ(つか)んだ。
この腕が、
この腕で。
声にならない悲鳴をあげながら、なんで、どうして、って、生きてきて初めて絞り出すように泣いた。
めちゃくちゃに縋って泣き叫んで愛された。
なんでって、苦しいって泣き叫んで、ごめん、ほんとにごめん、って言ってる彼に無茶苦茶に抱かれた。
彼も愛してるって私の体に気持ちをぶつけて、今までで一番深く繋がっていた、身も心も。

いつもいつも私たちは愛し合っていた。
いつも激しく何時間も何回も。

 これが浮気される前だったら

 最初からこんなふうに。

だのにこれが一番ドロドロに、もうお互いの境目もないぐらい一つになるような、何もやましいことも嘘もない、全てを曝け出した心と体同士が混ざり合う、最初からこうしていればよかったのに。

私はいつもこうだった。
全てを彼に開けていた。

だから同じような彼を求め続けていた。

もし彼が後ろめたさなしで向かってくれていたら、こうだったんだ、愛は。

無かったらよかったのに。

私を愛していた、彼は他の人を同じように愛してきて、その体で私に触れた。
信じられなかった。

こんな触れ合いを、なぜ他の人と出来たの?
どうしたらそんなことが起こるの?

だって私たちが愛し合ってて、一つになって、なのに、どうやって他の人をそんな同じ位置まで近づけられたんだろう。
そして私はカノジョと同じ位置、
彼にとっての近さが同じだった、
そんなところまで落とされたんだ。

お互いが特別だったはずなのに、カノジョと同列にされたんだと思った。

 サレ妻に落とされた

私たちは違うって、そんな問題起こりっこなかったはずだ。

いつか愛し合った後、ふざけて、


『浮気する前に思いとどまるよね、
こんなこと他の人と出来ない』


って彼に言ったら、彼の歯切れがほんの少し悪かった。だから、


『いよいよその直前にだって、やめるよね、
ありえない、』


としつこく言ったら、


『そうだね』


と笑ってた。


『だってありえないよね、止めるよね、
普通、気がつくよね、我にかえるよね、』


彼は、


『だね⋯⋯  』


って。

あの時にはもう、そんなことをしてきた人が、後悔しながら、3年も、だますように、カノジョを抱いたその体と腕で私を抱きしめていた、そんなんだったから。

だから、激しく愛し合っても、違っていたんだ。

そんな事が本当に無かったら、このまま彼と愛し合って、これからの一生を過ごした。ずっとずっと、愛されて満たされて愛し合っていた。

彼の目には私への愛。
彼は元に戻れたんだと思っている。
私を見下ろして、あんなに愛し合ってもまだこれからも愛を確かめあうんだと、欲望と愛を含んだ優しい熱い目で私を見下ろしている。

すぐにもう一度求められた。

私の首筋に胸に、顔をつけた時、彼も泣いていた。

私の頭に大きな手を当てて、両手で頭を持って、彼に深く私を抱き込んで、これ以上ないほど一つになっていて、もう隠す事はない、3年間苦しかったよ、愛してるんだ、と開き直ったように、彼の全てをぶつけてきて縋り付くように私を本気で全身で愛してるこの人。


「もう何もない、結ばれてるんだオレたち、愛してるよ」

「もう乗り越えよう2人で。逃げなかったオレだ、もうどんな事からも逃げない。きみと生きていく」

「そろそろ子供も作ろう、中に出したい」

「君とだけだ。君が全部欲しい」


彼の心が次々と私を求めて、言葉になって溢れてくる。
求め続けていた彼の心まるごとだ。
彼の全てをやっと手に入れた時は壊れてからだったなんて。
なんて残念。
なんて皮肉。

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