政略夫婦は念願の初夜に愛を確かめる〜極上御曹司の秘めた独占欲〜
「では副社長、私はこれで失礼いたします。明朝は九時にお迎えに上がります」
「ありがとう。お疲れ様」
ふたりのやり取りを見守り、去っていく及川さんに頭を下げる。
玄関のドアの向こうにその姿が消え、改めて「おかえりなさい」と拓人さんを見上げた。
「ただいま」
革靴を脱ぎ、玄関を上がってきた拓人さんの手が私へ伸びてくる。
え?と思ったときには、その両手に捕まっていた。回された腕に抱き寄せられる。
「拓人さん……?」
「もっと喜んでくれると思ったんだけど」
「え……?」
「明日帰るところが今日になって。茉莉花に早く会いたいから、仕事巻いてきたんだけどな」
思いもよらない行為と言葉に、瞬きを忘れて静止する。
こんな風に抱きしめられるのはいつぶりかわからないし、私に会いたいから仕事を巻いて早く帰ってきてくれたなんて初めてのこと。
「う、嬉しいに決まってるじゃないですか!」
勢いよく出た返事は、力が入りすぎてどこか嘘っぽく聞こえる。
斜め上から拓人さんがクスッと笑ったのを感じた。
「ほんとに? それならいいけど」
拓人さんは私を解放し、何事もなかったようにリビングへと入っていく。
一体どうしたのだろうと思いながらも、私の鼓動は久しぶりに早鐘を打っていた。