政略夫婦は念願の初夜に愛を確かめる〜極上御曹司の秘めた独占欲〜
いきなり話を振られて、変な反応を見せてしまった。
それでも隆史さんは穏やかに「そうですか」と笑う。
「実家は天妙庵という旅館を営んでいます」
「天妙庵? 本当に? うちの両親が京都で気に入っている旅館だよ」
「そうなんですか? ありがとうございます」
「そうか。茉莉花さんは天妙庵のご令嬢だったのか」
「はい。ご両親にも、どうぞよろしくお伝えください」
ちらりとキッチンに目を向けて、いつの間にか早苗さんの姿がなくなっていることに気づく。
用意したケーキはカウンターにすでに出されていて、席を立ちダイニングテーブルへと運んでいった。
「すみません、お手洗いお借りします」
隆史さんにひと言断り、立ち上がったついでにお手洗いを借りることに。
リビングを出てすぐのお手洗いに近づいたとき、玄関の方から話し声が聞こえ足を止めた。
拓人さん……?
聞こえたのは、拓人さんひとりの声。どうやらまだ通話中のようで、様子を窺いに玄関へと廊下を進む。
我が家と同じで、廊下の突き当たりを曲がったところが玄関スペースとなっているつくり。
玄関に出る角に差し掛かったところで、その先にいるのが拓人さんだけではないことに気配で気づいてしまった。
気づかれないように、息を止めそっと顔を覗かせる。