迷彩服の恋人 【完全版】

〝望月 都〟という女性(ひと)は…。 ◆真矢 side◆

「私、望月 都(もちづき みやこ)と申します。」

捻挫の処置終了後、ロビーで世間話をしている中で…〝彼女〟がそう名乗ってくれる。

「あっ、これは大変失礼しました。僕は――。」

そういえば…。俺も名乗っていなかった。

この流れで名乗ろうと口を開いた時、俺の仕事用のスマホが鈍い音を響かせながら振動した。

ヴー、ヴー、ヴー…

――誰だよ!
あと5秒遅く掛けてきてくれたらよかったのに…。

“森下技術曹(ぎじゅつそう)”か…。
…なら、まぁ…出なきゃ仕方ないな。

それにしても、このタイミング…。
つくづく"女運"が無いよなぁ。
"嫌がらせか!"って思うレベルで毎回間が悪い。

「…ん?あっ!上司からの連絡なので出ないと。少し席を外しますね。」

「あっ、はい――。」

俺は望月さんのそんな返事を背中で聞きつつ、外に出た。

「はい、土岐(とき)。“森下技曹”、どうされましたか?」

{「“土岐士長”。至急、帰舎(きしゃ)することは可能か?実は【ペナルティ対応】を複数しているのと――。」}

「えぇ。」

{「一番下の5歳の娘が今朝から微熱で気怠るそうだったんだが…。下がるどころか上がってきたらしくて、『病院には連れて行けるが、そのまま夜勤に入るからその後の面倒が見れない』って話で妻から連絡があって――。今日に限って、俺たちの両親が旅行に行ってて…いないんだ。」}

“森下技曹”の奥さんは自衛隊病院の看護師だ。俺もお世話になったことがある。

なるほど、いろいろ重なってるな。面倒を見る人がいないのか…。
一番上の子でも10歳だって言ってたし、病気の世話までは難しいもんな…。

俺に白羽の矢が立ったのは、(おおむ)ね“森下技曹”の部下で〝彼女無しの独り身〟だからだろう。

「今から戻って、“森下技曹”と当直を代われば良いんですね?奥様の夜勤は何時からでしょうか?」

{「1800(ヒトハチマルマル)だ。」}

現在…1710(ヒトナナヒトマル)
1730(ヒトナナサンマル)には帰れるだろうけど――。

1800(ヒトハチマルマル)、了解。ただ、こちらも要救護者遭遇につき、付き添ってましたので〝彼女〟にこの(むね)伝えた(のち)…行動を開始します。1730(ヒトナナサンマル)帰舎(きしゃ)予定。」

{「1730(ヒトナナサンマル)帰舎(きしゃ)予定、了解。……土岐、すまないな。」}

「いえ、こういう時はお互い様です。“森下技曹”。お気になさらず。」

そう言って“森下技曹”との通話を終えた俺は、望月さんの元へと急いだ。
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