迷彩服の恋人 【完全版】
「すみません、望月さん。ちょっと寮内で当番を代わってほしいという人間がいまして…。すぐに帰らないといけなくなりました。」
「そうなのですね。私はもう落ち着いていますし、大丈夫ですから。どうぞお戻りになって下さい。」
俺が少々早口で事情を伝えると、彼女もハッとした顔をして「どうぞお戻りになって下さい」なんて言ってくれる。
強引に引き止めてこない…。
ここに来るまでの車内でも思ったけど…彼女は、なんて〝察する能力の高い人〟なのだろうか…。
"状況をみる"ことができていて、"余計なことを聞かないし…言わない"――。
俺が今までに出会った人の中には、何かにつけてマウントを取ってきたり…転職を複数回した理由を聞いてきたり――。
女性に限った話をすれば、過去の恋愛話を引き合いに出してきたり、自衛官という仕事に文句を言ってきたり――。
招集がかかって行かなきゃいけないのに、引き止められて…危うくクビになるところだったこともかつてはあった。
しかし今はそれがない。
それどころか、俺の胸の内は爽やかな風が吹き抜けたようにスッキリとし…木漏れ日に照らされたように、温かくなっていく。
もしかして、俺の方が離れがたいと思ってるか…?
あぁ……。望月さんには、そんな風に〝人を優しく包むような雰囲気〟があるのかもしれない。
だからこそ。最後まで誠実に対応したいと思って、別れ際の言葉を…心のままに伝える。
「ご家族が到着するまで一緒にいると言っておきながら、本当に申し訳ありません。ご家族によろしくお伝え下さい。そして早く回復されますように。…では、失礼します。」
俺は無意識に、自衛隊式の【脱帽時の敬礼】を【挨拶のお辞儀】として、してしまったけれど…。
自衛官だってバレただろうか…。
なんて考えながら…俺はその足で受付に向かい、女性のスタッフさんに…「望月さんのご家族が来られてお礼のことを気にされていたら、お構いなく。それよりも、娘さんが早く回復されますようにって伝えて下さい」と改めて伝言をお願いして、俺は病院を後にした。
**
「〝望月 都さん〟か……。早く回復するといいけど。」
ちょっと待て!
俺は、どうしてこんなにも彼女のことを…考えてるんだ?
〝望月 都〟という女性を、もう少し知りたかったのだろうか…?
ただ今日〝偶然助けただけの人〟で、きっと〝もう会うこともない人〟なのに――。
運転しながら、頭の片隅でそんなことを考える帰り道は……どうも落ち着かなかった――。
**
「土岐、ただいま戻りました。…着替えて、すぐ戻ります。」
「桜木!松本!休むな!腕をしっかり伸ばせ!」
警衛に外出許可証を見せ、隊舎内の事務所に顔を出すと…いきなり“須田曹長”の怒号が聞こえる。
今日の当直は、“須田曹長”とか…ちょっと面倒だな。
ちなみに、【警衛】とは駐屯地の門番のことだ。
腕立て…。 【ペナルティ】は、この2人か…。
何をしたんだ?“桜木1士”、“松本1士”。
まぁ。何にせよ、俺は早く【戦闘服】に着替えて…“森下技曹”と交代しなければならないから、営内の自室にいったんは戻る。
【営内】とは、駐屯地内にある〔隊員たちの居住スペース〕のこと。
「そうなのですね。私はもう落ち着いていますし、大丈夫ですから。どうぞお戻りになって下さい。」
俺が少々早口で事情を伝えると、彼女もハッとした顔をして「どうぞお戻りになって下さい」なんて言ってくれる。
強引に引き止めてこない…。
ここに来るまでの車内でも思ったけど…彼女は、なんて〝察する能力の高い人〟なのだろうか…。
"状況をみる"ことができていて、"余計なことを聞かないし…言わない"――。
俺が今までに出会った人の中には、何かにつけてマウントを取ってきたり…転職を複数回した理由を聞いてきたり――。
女性に限った話をすれば、過去の恋愛話を引き合いに出してきたり、自衛官という仕事に文句を言ってきたり――。
招集がかかって行かなきゃいけないのに、引き止められて…危うくクビになるところだったこともかつてはあった。
しかし今はそれがない。
それどころか、俺の胸の内は爽やかな風が吹き抜けたようにスッキリとし…木漏れ日に照らされたように、温かくなっていく。
もしかして、俺の方が離れがたいと思ってるか…?
あぁ……。望月さんには、そんな風に〝人を優しく包むような雰囲気〟があるのかもしれない。
だからこそ。最後まで誠実に対応したいと思って、別れ際の言葉を…心のままに伝える。
「ご家族が到着するまで一緒にいると言っておきながら、本当に申し訳ありません。ご家族によろしくお伝え下さい。そして早く回復されますように。…では、失礼します。」
俺は無意識に、自衛隊式の【脱帽時の敬礼】を【挨拶のお辞儀】として、してしまったけれど…。
自衛官だってバレただろうか…。
なんて考えながら…俺はその足で受付に向かい、女性のスタッフさんに…「望月さんのご家族が来られてお礼のことを気にされていたら、お構いなく。それよりも、娘さんが早く回復されますようにって伝えて下さい」と改めて伝言をお願いして、俺は病院を後にした。
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「〝望月 都さん〟か……。早く回復するといいけど。」
ちょっと待て!
俺は、どうしてこんなにも彼女のことを…考えてるんだ?
〝望月 都〟という女性を、もう少し知りたかったのだろうか…?
ただ今日〝偶然助けただけの人〟で、きっと〝もう会うこともない人〟なのに――。
運転しながら、頭の片隅でそんなことを考える帰り道は……どうも落ち着かなかった――。
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「土岐、ただいま戻りました。…着替えて、すぐ戻ります。」
「桜木!松本!休むな!腕をしっかり伸ばせ!」
警衛に外出許可証を見せ、隊舎内の事務所に顔を出すと…いきなり“須田曹長”の怒号が聞こえる。
今日の当直は、“須田曹長”とか…ちょっと面倒だな。
ちなみに、【警衛】とは駐屯地の門番のことだ。
腕立て…。 【ペナルティ】は、この2人か…。
何をしたんだ?“桜木1士”、“松本1士”。
まぁ。何にせよ、俺は早く【戦闘服】に着替えて…“森下技曹”と交代しなければならないから、営内の自室にいったんは戻る。
【営内】とは、駐屯地内にある〔隊員たちの居住スペース〕のこと。