迷彩服の恋人 【完全版】
朝香先輩と喋ってる間に、花村さんが帰り支度を整え、私に近寄ってきていることに…もう少し早く気づくべきだった――。
「もう!〝もっちゃん(望月先輩)〟、行きますよ!」
…えっ!?ちょっと待って!何で私、朝香先輩と花村さんに両脇抱えられて引きずられてんの!?
私は〝囚われた囚人〟かー!!
目の前に栗原さんもいるし…。
あーぁ。私に拒否権は無いし、強制連行されてるし…理不尽!!
「どこ行くんですか!?ちょっと!?」
「どこって…トイレよ、トイレ!まさか化粧直しもせずに会うつもり?…大丈夫、私と花村でメイクしてあげるから!」
朝香先輩にそう言われて引きずられていく私を助けに来てくれる人は…男女ともに、今うちのフロアにはいないようだ。
あぁ、さよなら…〝シオン様〟、〝レイナ姫〟――。
さよなら、私の"至福の時間"――。
立川くんと広瀬くんが、私が連行されていく様子を唖然とした顔で見ていた――。
そして、化粧室にて…私はあれよあれよという間にいつもより"濃いめのメイク"を施されて、不快に思いながらも…営業のフロアに戻り〝主任〟がフリーになるのを待った。
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「ただいま…って、あら?〝望月さん〟のメイクが朝と違うわね。」
17時50分に会議室から営業のフロアに戻ってきた〝主任〟が開口一番にそう告げる。
さすが結花先輩、よく見てるな。
「結花、もっちゃん…橋本さんの代わりに今からの合コン付き合ってくれるって!」
朝香先輩からのそんな一言を聞いて、結花先輩が困ったような笑みを…私に向けてきた。
「ほんとに良いの?…今日【好きなアニメ】の放送日でしょう?」
「朝香先輩から伺いましたが、今日お集まりの男性の方々…なかなか〝集まることが難しい皆さん〟なんだとか――。」
「まぁ…そうね。でも、逆に当日のドタキャンとか、参加してても"呼び出し"があれば帰る人たちよ。私たちが定員いっぱいの人数いたとしても男性陣の人数が少なくなることもあり得る。だから本当に気にしすぎないで。」
「この際"乗りかかった船"なので、もういいですよ。私で役に立つなら行きます。アニメは録画してきたので大丈夫です、お気遣いありがとうございます。」
「ありがとう……。さて、それじゃあ…せめてそのメイクは直していきましょ。好みじゃないでしょ?あなたの。〝望月さん〟が一番キレイに可愛く見えるのは、普段のナチュラルメイクよ。…ね?」
結花先輩の心配りに、泣きそうになった。
「3人はエントランスで待ってて。私たちのこと疑って化粧室に様子なんか見に来たら…承知しないわよ。分かってるわよね?ここまでで十分私の機嫌損ねてるの。」
3人にそう釘を刺して、先輩は私の手を引き化粧室へ向かおうとした。
「望月さん、また月曜日に『WIZARD』の話しましょう。妻と息子と見ておきますね。」
そう言ってくれた岬さんは、一瞬"ごめんね"とでも言うかのように…小さく手を合わせている。
――"俺がその場にいたら、庇ってあげられたのに…ごめんね"
彼の仕草から、そんな言葉が聞こえてきた気がした。
「ふふっ。岬さん、楽しみができました。ありがとうございます。」
「望月さん、俺たちともしましょう。」
「うん、明日には見ておくね。立川くん、広瀬くん。」
2人も気を遣ってくれてるんだね、ありがとう。