迷彩服の恋人 【完全版】
私がボーッとし始めて10分ぐらいは経っただろうか――。

「姉ちゃん、落ち着いた?…メシ、部屋の前置いとくから。」

「あっ…待った、朝也。」

「何?」

「私がいけないのかな…。」

私がドアを少し開け、そう話し出せば…"これは長くなるな"と察した朝也が部屋に入ってきて…床に胡座(あぐら)を掻いた。

ちなみに、私のご飯は目の前にある折り畳みテーブルの上だ。

「姉ちゃんと母さんの喧嘩は、だいたい母さんが悪い…というか、暴走してるでしょ。子離れできてなさすぎ。さっきの、勝手に返事するのはマジであり得ない…。観音寺さんのことだし…どうせ自分以外の女は〝引き立て役〟ぐらいに思ってんじゃないの?」

「朝也…。」

朝也も見破ってるぐらいなのに――。

「そんなことでもなきゃ…姉ちゃん、嫌がんないっしょ?自分の勘信じて、避けれるなら避けた方が良いと思う。俺のお客さんでもいるし…〝男は全員自分に振り向くと思ってる勘違い女〟。」

美容師として、20歳(はたち)から働く弟は…6年間でいろんな女性を見てきたようだ。

「あと…まぁ。姉ちゃん、どっちかっていうと自分に自信無いじゃん?…だから、なんて言うか。〝従順そうな女〟に見えるんだろうな。男の方がナメてかかって、〝印象通りの女〟じゃないって分かると…"可愛いくねぇ!"ってなるのかも。ほら。姉ちゃんが本気出すと、父さんと一緒で理論で喧嘩するじゃん?…でも、まぁ。そんな男と一緒にいてもきっと姉ちゃんが幸せになんないから、相手しない方がいい。」

心当たりがありすぎて耳が痛い。

やっぱり男の人だって、〝従順で可愛げのある女〟の方が好きだよね。

……はぁ〜。

「姉ちゃん、また"どうせ私は可愛げ無い女だし"って悪い方に考えてるだろ、今…。しょうがないな。明日の朝、起きたら俺の部屋来て。会社行く前にヘアセットとメイクしてやるから。雰囲気変えればテンション上がる時…結構あるし。」

クスッ、ありがとう…朝也。

〝心優しい弟〟に、姉の思考はお見通しだったようだ。

「あとさ、姉ちゃん。一昨日の『WIZARD(ウィザード)』――。」

「すぐ見れるよ。この私が【今季1番の推しアニメ】を録り逃すわけがないでしょう!」

「さっすが姉ちゃん!やっぱり持つべきものは〝オタクのお姉様〟だな。」

『WIZARD〜天才魔法師の戦術(シナリオ)〜』は、この4月から放送されている少年誌原作のアニメである。
内容としては、【天才魔法師の主人公が国家と愛する婚約者を守るために、頭脳と魔法を使って敵の襲来や陰謀を阻止していく】という話だ。

「はいはい。調子が良いんだから…もう。」

こうして朝也と一緒にアニメを見ながら、私は夕食の続きを食べる。
ちなみに、朝也とこんな風にアニメを見るというのは日常的なことだ。

**

そして翌日は――。
朝也が約束通りヘアセットとメイクをしてくれたおかげで爽やかに過ごすことができたのだった。
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