迷彩服の恋人 【完全版】
「噂には聞いたことありますけど、やっぱり外出許可要るんですね…。」

「そうですね。……外出許可は要りますね。でないと、俺たちは駐屯地(ちゅうとんち)から出られませんから。」

朝香さん、俺と会話しながら視線は麻生さんに向いてるな。
俺のこと、放っておいてくれて構わないですよ。

この様子を、志貴先輩と桧原さんは自分たちの近況報告をしつつ…見聞きしてくれているような雰囲気だった。

「…あぁ。あと、結花が…"リョウ"とか"ジョウキョウショウアク"とか… "サンソウ"って言葉も言ってました。それはどういう意味ですか?」

朝香さんから、そんな質問が飛んでくる。

読んで字の如くなんだがな…。
まぁ、聞くだけじゃ漢字までは想像できないか…。
"3曹"なんて言葉も出てきたし、〝階級〟のことを説明しておいてもいいかもしれない。

えっと…。書くもの、何かあったかな…。

俺は自分の体をボディチェックするかのように、体のあちこちを触ってみる。

やっぱり無いよなー。書いた方が早いんだが…どうしようか。

「土岐くん、都ちゃん経由で受け取って。1枚あれば足りる?……ごめん、都ちゃん。土岐くんに"コレ"渡してもらえるかな。」

「あっ、はい…。土岐さん。紙とペンです。」

「あっ、さすが桧原さん。助かります!…足ります!両面使います!……望月さんもありがとうございます。」

「いえ…。とんでもないです。」

そう言った後、彼女は再び箸を進め始めた。
しかし気になることもあるようで、積極的には会話に参加しないものの…俺が話し出すのを待っている素振りも見せていた。

「"リョウ"と"ジョウキョウショウアク"は、読んで字の如くですが…。 "リョウ"は"了解"を簡略化したもの。"ジョウキョウショウアク"とは【状況掌握】と書くので…【状況は掴めているか】という意味になります。また"サンソウ"は"3曹"と書き、自衛隊の階級の1つです。正式には〈3等陸曹〉と言います。」

俺は口でそう説明しながら、さっき望月さんから受け取ったメモ用紙に…自衛隊の階級を全て書き出して、ひとまず桧原さんに見てもらった。

「皆さん。全階級…書き出すとこんな感じですかね。ちょっと待って下さいね。桧原さんに見てもらってから、皆さんにお見せします。どうですか?あなた方の会社で例えたとしたら…役職、合ってます?」

「うん?どれどれ?……あ。そうね、〔幸味(うち)〕はこんなものよ。隼人は?相違ない?」

「どれどれ?…あっ、いいんじゃないか。」

「じゃあ、ちゃんと見てもらっても大丈夫ですね。…どうぞ。」

そう言うのと同時に、俺は書き出した紙をズイと前に出した。


――――――――――――
【統合幕僚長(将):会 長】
【幕僚長(将) :社 長】
陸将  :副社長
陸将補 :専務,常務
1等陸佐:本部長
2等陸佐:部 長
3等陸佐:次 長
1等陸尉:課 長
2等陸尉:課長補佐
3等陸尉:係 長
准陸尉 :主 任
陸曹長 :副主任
1等陸曹:平社員(チームリーダー)
2等陸曹:平社員
3等陸曹:平社員
陸士長 :契約社員
1等陸士:アルバイト
2等陸士:アルバイト

※ 16階級で考える場合は
幕僚長からではなく
陸将をトップに置いて考える
―――――――――――


「あぁ、その"3曹"。"山荘"かと思いました。…で、志貴さんが3等陸曹。土岐さんは先ほど中崎さんに"陸士長"と言われていたので分かったんですが、中崎さん本人と…麻生さん、古川さんは…?」

「俺も土岐さんと同じく、〈士長〉ですよ。ついでに言うと、俺の方が年下なんですけど、土岐さんより先に入隊したので〝年下の先輩〟なんですよ。それで課業中は『土岐』って呼ぶんですけど、課業後は敬語で話しますし…敬称付けます。だけど、時々混ざちゃうので驚かないで下さいね。ちなみに、【課業】は【仕事】のことを指します。これも自衛隊独特の言い方だと思います。」

朝香さんの問いに、麻生さんがサラッと答えている。
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