迷彩服の恋人 【完全版】
「俺と中崎は、〈1等陸士〉…〈1士〉ですね。」

麻生さんに続くように、今度は古川が口を開く。

「なるほどね。じゃあ…やっぱり、この中では志貴さんが一番上なんだ。」

「そうですね。それに志貴先輩は、土岐先輩や俺の部屋の〈部屋長〉でもありますし…。なので、志貴先輩には絶対に逆らえないですよ。」

「おいおい。中崎、そりゃないぜ!そんな怖いか?俺…。お前のこと可愛がってるつもりだし…さっき結花のこと褒めてたから嬉しかったのに…。泣くぞ。」

「またまた〜。冗談なの、分かってるじゃないですか。先輩。」

はは。やっぱお前、人懐っこいな。
良いキャラしてるよ。

「ふふっ。中崎さんと土岐さんは、本当に志貴さんのこと慕っていらっしゃるんですね!仲良いなぁ。」

…あ、あの時の笑顔だ。ようやく見れた。

「えっ!望月さん、かわいい。…なるほどね、結花が豪語するわけだ。周りの人から『笑顔が素敵だ』ってよく言われるでしょ?」

「えっと、あの…そんなことないと思いますよ。」

「ほんと、都ちゃんは謙遜(けんそん)しすぎよ。…こんなに可愛いのに。ただ、隼人が〝私の都ちゃん〟をシレッと口説いてるのが許せないんだけど…!」

「ええっ!?結花先輩、怒るの"そこ"ですか!?」

はは。桧原さんと望月さん…俺と志貴先輩みたいだな。…癒される。

「また始まった。結花は〝もっちゃん〟に対して過保護すぎ!キモいんだけど。」

朝香さんのこの表情(かお)、冗談で言ってんのか本気で言ってんのか分かんねぇ…。

ただ単に、桧原さんと望月さんは仲良いだけだと思うけどな。

「あんた、それ真顔で言う?冗談が通じないの、ほんとやだわ。いいのー。私と都ちゃんの関係性では成り立ってんだからー。…ね?」

「はいっ!」

望月さんが嬉しそうに答える。

「先輩たち、またやってる。よく飽きないよね。ところで…麻生さぁん、聞いてもいいですかぁ?」

「何?花村さん。」

「自衛隊員さんって、お仕事大変ですよね。お給料って、実際どれくらいあるんですか〜?」

あれ?今日の集まりって婚活だったか?いや、合コンだよな。
まだ付き合ってもないのに、軽々しく年収を聞いてくるなんて…あり得ない。

やっぱり彼女は――。【無し】だな。

「えっ、あー。俺たちの階級だと年収200万〜400万ぐらいありますね。一応、国家公務員なので。」

麻生さん。そんな、何の躊躇(ちゅうちょ)もせずに軽々しく年収明かさないで下さいよ。
まぁ。防衛省のホームページに、おおよその金額は出てますけど――。

「ちょっと花村さん!いい加減にしなさい!」

さすがに、志貴先輩と朝香さんも苦笑いしてるし、望月さんと桧原さんは呆気に取られた表情(かお)した後、すぐに頭を抱える手振りをしていた。

そして少し声を張って、花村さんの発言を(とが)めたのはもちろん桧原さんだ。

…気分が良くない、ちょっと外の空気吸ってこないと"この場"を乱しそうだ。……頭を冷やそう。

このタイミングで席を外す方が、狙って"わざとやってるんじゃないか"とか思われそうだが……。

「すみません。志貴さん、少し酔い覚まし…一服してきていいですか?」

「あぁ、行ってこい。」

「えっと…煙缶(えんかん)、煙缶…あー。忘れてきたかな…。」

携帯用の"それ"が入っていそうな場所を、またしても探るようにあちこち触ってみるが…どこにも無い。
遅れた分、慌てて出てきたから忘れてきたようだ。

「何?土岐。お前、煙缶忘れてきたの?…俺の持ってけよ、ほら。」

「ありがとうございます、お借りします。」

忘れてきたことを察した志貴先輩が、私物を快く貸してくれたので…それを受け取り、店の外へ出た。


振り返ることなく出てきてしまったから、望月さんが俺の背中を見ていたことには気づかなかった――。

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