迷彩服の恋人 【完全版】
「いいえ、謝らないで下さい。僕が聞いたんですから。…望月さんは、やっぱり〝とても優しい方〟なのですね。先ほどの様子を見ていてもそうですが…。おそらく、皆さん"自分より他人のことを優先的に考えて行動するっていう望月さんの性格"を分かった上でやっているように思えます。要は、あなたに甘えているんです。お母様も含めて…。だから、いいんですよ。自分の気持ちを優先する時があっても――。」
「土岐さん……。」
……っ!そっか。この話になった時、なぜかドキッとしたり泣きそうになったのは…【本当は触れてほしかった気持ち】に土岐さんが触れてきたからだ、きっと。
「気持ち…全部吐き出せました?本音を言えずに苦しかったんじゃないかと想像しまして。…って!僕、出過ぎた真似をしてますね…申し訳ありません。」
私――。
苦しいって自覚無かったけど、実は聞いてほしかったのかもしれない――。
「お会いしてまだ2回ですし、他人が深入りするものでないとは考えながらも…望月さんを病院に送り届けた日…。車中でのお母様との通話内容が、実は気になってまして――。」
それはそうかもしれない。
あれだけ溜息つきながら、通話してたんだから。
「あはは、あの時は…そうですね。驚かれましたよね…。でも、気にかけて下さっていたなんて…ありがとうございます。」
「気分を害したとか、そういうことではないので…そこは気にしないで下さいね。…さて。少し気持ちが落ち着くまで、どうぞゆっくりして下さい。その間のBGMとして、今度は僕の話を聞いてもらえますか。あなたは自分のことを話してくれたのに、僕は話さないのは…フェアじゃないので――。」
私よりあなたの方が、圧倒的に〝お優しい方〟だと思いますよ…土岐さん。
それに、私の気持ちが落ち着くまで「自分の話をBGM代わりに話しておくから、聞き流しながら気持ち整えて」なんて……なかなか言えることじゃない。
捻挫で助けてもらった時から思ってることだけど、彼はやっぱり誠実で〝人として尊敬できる方〟だなぁ…。
そんな風に思いながら、土岐さんの話を聞く。
「僕は…〝おじさんっ子〟なんです。父の弟である叔父は元陸上自衛官で今は警備会社に勤務。母の兄である伯父は元自動車整備士で現在は自動車店のディラーのトップ…いわゆる〝統括〟をしています。小さい頃はよく伯父がドライブに連れて行ってくれたり、両親が仕事で少し遅くなる時なんかは伯父だって仕事中だろうに…『遊びに来ていいよ!』って僕と弟を工場に呼んでくれて、車のことを子供でも分かるように噛み砕いて教えてくれたんです。それからですね、車が好きになったのは――。」
「そうだったんですね、その頃から〝整備士さん〟の片鱗が見えてるじゃないですか。すごいですね!」
「はは、それほどでもないと思いますけど。望月さんがそんなウキウキした感じで褒めて下さるとは……。なんか僕より楽しそうですね。」
「あっ、ごめんなさい!調子に乗りました。」
「いえ、楽しそうに聞いていただけて嬉しいです。ただ――。」
「ただ――。」と続きの言葉を言い淀む彼の表情は、"苦しそう"とも"切なげ"ともいえる雰囲気が滲んでいた。
これ、このまま聞いてていい話かな…?
「順調に生活していたら、きっと…僕は大学にも行っていたし、自衛隊に入隊することも無かったでしょうね…。家庭の事情で大学に行けなかったんですけど…自動車整備士になるための専門学校へ2年間行くのは、母が『絶対に行かせてあげるから行きなさい』と言って行かせてくれました。」
「そうなのですね…。」
"家庭の事情で大学に行けなかった"――。
この言葉の意味をこれ以上深く聞いてはいけない気がした――。
土岐さんも、いろいろ苦労というか…大変なことがあったのですね。
「土岐さん……。」
……っ!そっか。この話になった時、なぜかドキッとしたり泣きそうになったのは…【本当は触れてほしかった気持ち】に土岐さんが触れてきたからだ、きっと。
「気持ち…全部吐き出せました?本音を言えずに苦しかったんじゃないかと想像しまして。…って!僕、出過ぎた真似をしてますね…申し訳ありません。」
私――。
苦しいって自覚無かったけど、実は聞いてほしかったのかもしれない――。
「お会いしてまだ2回ですし、他人が深入りするものでないとは考えながらも…望月さんを病院に送り届けた日…。車中でのお母様との通話内容が、実は気になってまして――。」
それはそうかもしれない。
あれだけ溜息つきながら、通話してたんだから。
「あはは、あの時は…そうですね。驚かれましたよね…。でも、気にかけて下さっていたなんて…ありがとうございます。」
「気分を害したとか、そういうことではないので…そこは気にしないで下さいね。…さて。少し気持ちが落ち着くまで、どうぞゆっくりして下さい。その間のBGMとして、今度は僕の話を聞いてもらえますか。あなたは自分のことを話してくれたのに、僕は話さないのは…フェアじゃないので――。」
私よりあなたの方が、圧倒的に〝お優しい方〟だと思いますよ…土岐さん。
それに、私の気持ちが落ち着くまで「自分の話をBGM代わりに話しておくから、聞き流しながら気持ち整えて」なんて……なかなか言えることじゃない。
捻挫で助けてもらった時から思ってることだけど、彼はやっぱり誠実で〝人として尊敬できる方〟だなぁ…。
そんな風に思いながら、土岐さんの話を聞く。
「僕は…〝おじさんっ子〟なんです。父の弟である叔父は元陸上自衛官で今は警備会社に勤務。母の兄である伯父は元自動車整備士で現在は自動車店のディラーのトップ…いわゆる〝統括〟をしています。小さい頃はよく伯父がドライブに連れて行ってくれたり、両親が仕事で少し遅くなる時なんかは伯父だって仕事中だろうに…『遊びに来ていいよ!』って僕と弟を工場に呼んでくれて、車のことを子供でも分かるように噛み砕いて教えてくれたんです。それからですね、車が好きになったのは――。」
「そうだったんですね、その頃から〝整備士さん〟の片鱗が見えてるじゃないですか。すごいですね!」
「はは、それほどでもないと思いますけど。望月さんがそんなウキウキした感じで褒めて下さるとは……。なんか僕より楽しそうですね。」
「あっ、ごめんなさい!調子に乗りました。」
「いえ、楽しそうに聞いていただけて嬉しいです。ただ――。」
「ただ――。」と続きの言葉を言い淀む彼の表情は、"苦しそう"とも"切なげ"ともいえる雰囲気が滲んでいた。
これ、このまま聞いてていい話かな…?
「順調に生活していたら、きっと…僕は大学にも行っていたし、自衛隊に入隊することも無かったでしょうね…。家庭の事情で大学に行けなかったんですけど…自動車整備士になるための専門学校へ2年間行くのは、母が『絶対に行かせてあげるから行きなさい』と言って行かせてくれました。」
「そうなのですね…。」
"家庭の事情で大学に行けなかった"――。
この言葉の意味をこれ以上深く聞いてはいけない気がした――。
土岐さんも、いろいろ苦労というか…大変なことがあったのですね。