迷彩服の恋人 【完全版】
「その後は整備士として〔ハルヒノ自動車〕の整備工場で働いたんですが…。学生バイトの頃から、上司からの【僕への当たり】が強くて悩んでたんです。結果、途中で投げ出した感じになりましたけど…耐えられなくて1年で辞めました。」

え、上司のパワハラ!?…そんな!

「…で。"21"の時に、専門卒業時に取った"整備士3級"の上である"2級"を取ろうと思ったんですけど、当然ながら資金も勉強時間も必要なので…稼ぎながらの資格取得を考えたんです。でも1人の頭では良い方法が浮かばないので…叔父に相談したら、自衛隊への入隊を勧められました。『ついでに人付き合いの仕方や、忍耐力を学んで来い!』と半分叱られながら…。」

そう言って土岐さんは苦笑いを浮かべていた。

「叔父に言われて"その通りだ!"と感じたし…"収入を増やして、母と弟の生活費や弟の学費の足しにでもできたら…"と思ったので入隊したんです。ただ、昔から弟以外の人間と遊んだりするのが苦手でしたし、中学も高校も〝一匹狼〟で静かに勉強や読書をしてる方が好きだったので……。僕の場合は任務や訓練よりも…人間関係を築いていく方が何倍もキツかったですね。"叔父は…なんて所を紹介してくれたんだ!"と、ちょっと恨みました。」

うわぁ…!叔父様、スパルタですね!

でも…。そんな叔父様のことを、土岐さんはとても慕っているのだろう。
穏やかな表情から、叔父様が大好きだと伝わってくる。

「自衛隊に入って強制的に集団生活をしたおかげで、入隊前よりはコミュニケーションも苦手ではなくなったし、僕が営内…あぁ、寮で生活したことで生活費がかからないので、その分弟にお金が回せた。だから良かったこともあります。でも、大勢の中で騒いで飲むとか体育会系のノリが、課業…じゃなかった、勤務時間外でも半強制だったりするのがやっぱりちょっとストレスで…。今と同じ任期制の期間である2年で…ひとまずは退官したんですよ。志貴先輩も、まだいなくて…相談役の人を作れずに抱え込んだんだと後になって気づきました。」

さっき階級の説明をされた時に初めて知ったことだけど、〈士長〉より下の階級の人は定年まで働けないんだとか…。
(りく)(かい)(くう)によって任期は違うらしいけど、2〜3年毎に契約更新をするとのことだった。

「そうなんですね。てっきり、ずっと自衛隊にいらっしゃったのかと思いました…!…あ、志貴さんもまだいなかったんですね。」

土岐さんにとって、志貴さんは…いろんな意味で〝大切な人〟なんだ。

「そして、その後は自衛隊で取得した"整備士2級"や大型免許などの資格を武器に、〔黒鷹(くろだか)運送〕で3年ほど〝トラック運転手〟をしてました。しかし、運搬ノルマのプレッシャーや…朝型だったり夜型だったりする不規則な生活のせいで、一時は体を壊しました。その間に〝僕のことを妬んでいた上司〟の都合の良いように話が進められ、依願退職を強要させられて…。要は"クビ切り"ですね。…で、今に至ります。」

土岐さんから発せられた言葉に、私は口をあんぐり開けてしまった。

それと同時に、"だから「趣味とか、気が抜ける瞬間とかが無いと…人は確実に壊れます。不健康になるというか…」なんて発言を彼はしたんだ"と私は納得がいった。
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