迷彩服の恋人 【完全版】
同窓会に行きたくなくて、怒って…注意力散漫だったのがいけなかったんだと思う。
「えっ?」
ヒールのつま先が何かに引っかかった気がする。
――あっ、やばい!転ぶ!!
……グキッ!
「痛っ!!」
このままじゃ顔から着地しちゃう!…と思ったから、とっさに手を付く。
手の方は捻らないように気をつけた。
さっきの痛みは、おそらく左足首……やっちゃったなー。
あー。やっぱり7cmヒールなんか履いてくるんじゃなかった……。
お母さんと無駄に喋りたくなくて、言われるがままコーディネートしてきちゃったのが完全に仇になったな…。
転んだ拍子にヒールも運悪く脱げて、見事に折れちゃってるし…。
ドレスワンピースの膝のところも破れちゃった。
"ショールがあって良かった、掛けとこ…。"なんて冷静に考えている自分と、突然の出来事に理解が追いつかず若干パニックになっている自分がいて…戸惑う。
「(プッ、プッ)……大丈夫ですか?」
なかなか立ち上がらない私に気づき、窓を開け…クラクションを鳴らして合図をくれたのは、白色の国産車に乗る男性の方だった。
ハイヒールが片方脱げていて、歩道に座り込んでいるのを見て、状況を把握してくれたらしく…その男性の車も歩道に入ってきた。
そして私が座り込んでいる1,2m先で停車したかと思えば…中からその人が降りてきてくれた。
「立ち上がれますか?」
私の目の前に立ったその人は、そう言って物腰柔らかな笑顔で手を差し伸べてくれる。
そんな彼は、筋肉質な体つきで黒髪の短髪スタイル。
素人の私から見ても、日頃から鍛えていると分かるぐらい頼もしい体格をしていた。
「あっ、ありがとうございます。でも…たぶん捻っちゃってて…。」
「えっ、本当ですか。…あっ。ここのタイルの窪みにヒールが引っかかったんですね、きっと。」
ほんとだ、タイルが一部欠けてる…。
「捻挫かな。えっと。すぐに冷やした方が良いけど、今日に限って荷物少なくしてきたし…どうしようかな。」
"今日に限って"って何? いつもは車にいろいろ積んでるの?
この人、いったい何者!?
私が、彼に対してそんな失礼なことを考えてしまっている中…周りで様子を窺っている人たちも増えてきたことに気づく。
――やだ、恥ずかしい!
「おい、〝お兄さん〟や。〝お嬢さん〟を病院へ連れていってあげなさいな。」
多数のギャラリーの中から、お爺さんが出てきて…そんなことを言ってきた。