迷彩服の恋人 【完全版】
「望月さんは…人との距離感計るの、すごく上手いんだな。朝香さんたちと仲良くするのは遠慮したいけど、あなたとは仲良くしたいよ。ほんとに。……あっ、そういえば。俺と土岐…歩くの速くなかった?大丈夫?」

歩くスピード?
何も気にしないで歩いてたけど、もしかして私…遅かった?

「あっ、そうじゃない!ごめんごめん、都ちゃん。」

そう言って数メートル前を歩いていた結花先輩が、私の元へ駆け寄ってくる。

「ごめんなさい!私、歩くの遅かったですか?」

「あっ!違います、違います!望月さんが遅いんじゃなくて…僕たちが速いんです。これも職業病なんですけど、行軍(こうぐん)…まぁ行進って言った方が伝わりやすいですかね。」

「自衛隊員さんたちの行進…。あっ、テレビで見たことあるかも…。確かに、きれいに足並み揃ってたような…。」

「そう、それ。実は"あれ"にはいろいろと細かい決まりがあってね。【歩幅は何センチ】とか腕を振る角度とか…。それでね。俺たちにはその動きが染み付いてるから、こっちがよっぽど意識してゆっくり歩かないと…周りの人たちを置いてきぼりにしちゃうんだ。……結花にも、未だに『速い』って後ろから手引っぱられるぐらいだし。」

そっか。
結花先輩が、後ろから志貴さんの手引っぱってコントロールしてたりするんだ。……ふふっ!

「そうよ。ほんと…歩くのとトイレ行くのとご飯食べるのは、すっごく速いのよ。ちなみに、【歩き始めは左足から】とか【1秒間に2歩】って決まってるしね。」

「"歩き始めは左足からで、1秒間に2歩"!!…そうなんですね!」

「はは。やっぱり望月さんは、ちょっとマニアックな話をするとか聞くのが好きなんですね。顔がウキウキしてますよ。」

どうして土岐さんが…ちょっと嬉しそうなんですか。

「隼人と土岐くんが並んで歩いてるのを後ろから見ると、面白いわよ。絶対"左"からだし、足並み揃ってるから!」

「あえて『やって!』って言われると、"狙ってやるもんじゃない!"って反発したくなるけど…。自然にやっちゃってるのを見る分には別に…咎めたりはしないから。」

そんな他愛もない話をして笑いながら、4人で駅まで足を進めた。

**

はぁ〜。帰った時の…【お母さんへの言い訳】どうしよう。

たぶん、玄関入ったら…「良い人、いなかったの?」とは、絶対聞いてくると思う。

普段どおり寝てればいいのに、何がそんなに心配なのか……私が出かけた日は帰ってくるまで起きてる。

はぁ〜。イヤだな…寝ててくんないかな。お母さん。

土岐さん巻き込みたくないなぁ…。

「…望月さん?大丈夫ですか?なんか元気ないっていうか、駅出てから口数減ってきてませんか?」

土岐さんには……やっぱり分かっちゃうよね。
よく見てるもん。

「都ちゃん?どうしたの?大丈夫?」

もうすぐ私の家に一番近いコンビニの前を通るっていうタイミングで、土岐さんと結花先輩が問いかけてくる。

なんて言えばいいのかな……。
でも、なんかもういいや。先輩だし…(つたな)くても伝わるはず。

「お母さんが……。」

「…ん?朝子(あさこ)さんがどうかした?」

「お母さん、玄関先で待ってると思うんです。それで、その……。『良い人、いなかったの?』って絶対聞いてくると思うんですけど、それが嫌で…どう切り抜けようかなって。」

「あー。うん、確かにね。私から見ても、朝子さん…過干渉だなって思う時あるからね。」

「夕方に『合コン行くことになったからご飯要らない』って電話したら、『まぁ!良い人見つけてきなさい!』ってノリノリで。……土岐さんを巻き込むのが、母の長話に付き合わせるのが嫌なんです。」

「えっ!?僕のことなんて気にしなくても、いざとなったら聞き流すので大丈夫ですよ。」

「それでも私が嫌なんです…。土岐さんは優しいから母の話も聞いてくれると思うんですけど…〝あの人〟の話は本当に長いので、疲れるんですよ。」
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