迷彩服の恋人 【完全版】
「そういうわけだから、身なり完全に整えてから出てきてねー。」
私は浴室にいる朝也に向かって、少し声を張ってそう伝える。
すると、少しエコーが掛かっている感じで朝也の返事が聞こえた。
「あぁ。姉ちゃん、おかえり。…了解。」
「…さて、志貴さんとおっしゃったかな?娘を送っていただきありがとうございました。」
「いえ、この時間に女性を1人で帰せませんから。」
私を家まで送ってくれた志貴さんに会釈した父に対して、同じく志貴さんも会釈し…さらに胸の前で"いえいえ"と小さく手を振っている。
「靖博さん、すみません。遅い時間に玄関先で。…はい、またぜひお邪魔したいと思います。朝子さんのお料理美味しいですし、私も1人暮らしなので…実は助かってます。1人分の料理って不経済なので。……あぁ、朝也さんお風呂だったんですね。とりあえず今日はもう遅いのでお暇しますが、朝也さんにもよろしくお伝え下さい。……それじゃ、都ちゃん。また月曜日に会社でね。」
「はい、お2人とも今日は何から何までありがとうございました!おやすみなさい。」
こんな会話の後、志貴さんと結花先輩は2人で仲良さそうに帰っていった。
「ところで、都。〝良い人〟はいた?」
何を期待してるの?
その、あえての〝ニッコリ笑顔〟やめてほしいんだけど。
「いないよ、そんな人。お母さん、事ある毎に何してたか聞くの…監視されてるみたいで嫌だからやめてって言ってるよね?」
「監視なんて…そんなつもりはないし、そんな言い方しなくても。」
「朝子、都も行く予定のない所に駆り出されて疲れてるんだ。帰ってきて早々に聞いてやるな。」
お父さん、さすが!ありがとう!
「姉ちゃん、おかえり。風呂空いたよ。あー。結花さん、帰っちゃったんだ。挨拶しそびれたなー。」
「ありがとう。じゃ、入ってこようかな。…結花先輩がね、『朝也さんによろしく。』って言ってたよ。」
朝也に先輩からの伝言を伝えつつ…私は母から逃げるように、着替えを取りに行こうと自分の部屋へ駆け込んだ。
「そうだ、お風呂出てからだと遅くなっちゃう!メッセージ……。」
ビジネススーツのジャケットの内ポケットから"メモ"を出して上着をハンガーに掛けた後、ベッドに座って…土岐さんへのメッセージを打つ。
――――――――――――
[土岐さん]
志貴さんがしっかり送り届けて下さいました!
母には少し捕まりましたが、父と弟が上手く
逃してくれました。
今からお風呂に入って、その後ゆっくり寝ます。
今日はとても楽しかったです!
本当にありがとうございました!
おやすみなさい。
――――――――――――
打つだけ打って、お風呂に行こうとしたら……。
バイブ音に引き止められる。
…ヴッ!
――――――――――――
[無事に帰宅されたようで、何よりです。安心しました。
お母様に深く聞かれなかったようで…。よかった。
お父様と弟さんが、望月さんの気持ちを分かって下さるのは
ありがたいですね。
ゆっくりお湯に浸かって、しっかり体を休めて下さい。
僕も、とても楽しかったですよ!
それでは、おやすみなさい。 土岐]
――――――――――――
土岐さん、返信早っ!!
そう思ったのと同時に、どうしてか心がほわっと温かくなった。
まだ地下鉄なのか、カプセルホテルの最寄駅からそこに向かって歩いてる最中なのかは分からないけど――。
疲れてるはずなのに、丁寧な返信をくれた彼はやっぱり誠実な人だと思う。
また返信を返したい気持ちにはなったけど、ずっとやり取りをしてしまいそうな気がするので、気持ちを振り払ってお風呂に向かう。
もちろん、さっきスーツのジャケットから出してベッドに無造作に置いた"土岐さんが書いたメモ"も、机の上にそっと置いて――。
私は浴室にいる朝也に向かって、少し声を張ってそう伝える。
すると、少しエコーが掛かっている感じで朝也の返事が聞こえた。
「あぁ。姉ちゃん、おかえり。…了解。」
「…さて、志貴さんとおっしゃったかな?娘を送っていただきありがとうございました。」
「いえ、この時間に女性を1人で帰せませんから。」
私を家まで送ってくれた志貴さんに会釈した父に対して、同じく志貴さんも会釈し…さらに胸の前で"いえいえ"と小さく手を振っている。
「靖博さん、すみません。遅い時間に玄関先で。…はい、またぜひお邪魔したいと思います。朝子さんのお料理美味しいですし、私も1人暮らしなので…実は助かってます。1人分の料理って不経済なので。……あぁ、朝也さんお風呂だったんですね。とりあえず今日はもう遅いのでお暇しますが、朝也さんにもよろしくお伝え下さい。……それじゃ、都ちゃん。また月曜日に会社でね。」
「はい、お2人とも今日は何から何までありがとうございました!おやすみなさい。」
こんな会話の後、志貴さんと結花先輩は2人で仲良さそうに帰っていった。
「ところで、都。〝良い人〟はいた?」
何を期待してるの?
その、あえての〝ニッコリ笑顔〟やめてほしいんだけど。
「いないよ、そんな人。お母さん、事ある毎に何してたか聞くの…監視されてるみたいで嫌だからやめてって言ってるよね?」
「監視なんて…そんなつもりはないし、そんな言い方しなくても。」
「朝子、都も行く予定のない所に駆り出されて疲れてるんだ。帰ってきて早々に聞いてやるな。」
お父さん、さすが!ありがとう!
「姉ちゃん、おかえり。風呂空いたよ。あー。結花さん、帰っちゃったんだ。挨拶しそびれたなー。」
「ありがとう。じゃ、入ってこようかな。…結花先輩がね、『朝也さんによろしく。』って言ってたよ。」
朝也に先輩からの伝言を伝えつつ…私は母から逃げるように、着替えを取りに行こうと自分の部屋へ駆け込んだ。
「そうだ、お風呂出てからだと遅くなっちゃう!メッセージ……。」
ビジネススーツのジャケットの内ポケットから"メモ"を出して上着をハンガーに掛けた後、ベッドに座って…土岐さんへのメッセージを打つ。
――――――――――――
[土岐さん]
志貴さんがしっかり送り届けて下さいました!
母には少し捕まりましたが、父と弟が上手く
逃してくれました。
今からお風呂に入って、その後ゆっくり寝ます。
今日はとても楽しかったです!
本当にありがとうございました!
おやすみなさい。
――――――――――――
打つだけ打って、お風呂に行こうとしたら……。
バイブ音に引き止められる。
…ヴッ!
――――――――――――
[無事に帰宅されたようで、何よりです。安心しました。
お母様に深く聞かれなかったようで…。よかった。
お父様と弟さんが、望月さんの気持ちを分かって下さるのは
ありがたいですね。
ゆっくりお湯に浸かって、しっかり体を休めて下さい。
僕も、とても楽しかったですよ!
それでは、おやすみなさい。 土岐]
――――――――――――
土岐さん、返信早っ!!
そう思ったのと同時に、どうしてか心がほわっと温かくなった。
まだ地下鉄なのか、カプセルホテルの最寄駅からそこに向かって歩いてる最中なのかは分からないけど――。
疲れてるはずなのに、丁寧な返信をくれた彼はやっぱり誠実な人だと思う。
また返信を返したい気持ちにはなったけど、ずっとやり取りをしてしまいそうな気がするので、気持ちを振り払ってお風呂に向かう。
もちろん、さっきスーツのジャケットから出してベッドに無造作に置いた"土岐さんが書いたメモ"も、机の上にそっと置いて――。