迷彩服の恋人 【完全版】
後輩の驚き ◆真矢 side◆
――望月さん、玄関先で足止めをくらわずに次の行動を取れただろうか…?
地下鉄に揺られながらそんなことを考えていると、スマホの上部に望月さんからのメッセージが来たことを知らせるバナーが表示され、それとともにバイブ音も鳴る。
…ヴッ!
――――――――――――
[望月 都さん]
志貴さんがしっかり送り届けて下さいました!
母には少し捕まりましたが、父と弟が上手く
逃してくれました。
今からお風呂に入って、その後ゆっくり寝ます。
今日はとても楽しかったです!
本当にありがとうございました!
おやすみなさい。
――――――――――――
無事に帰宅されたようだし、どうやら母親に合コンのことを深く聞かれなかったらしい。
この事実に俺も安堵し、肩の力が抜けた気がした。
無意識だったが、自分が思っていたよりも望月さんのことを心配していたことに気づく。
へぇ、弟さんがいらっしゃるのか…。
そして、その彼と…お父様は望月さんの味方のようだ。よかった。
あぁ、そうだよな。
今から風呂だよな、これは引き止めてはいけない。
お湯に浸かって、ゆっくり疲れを取って…その後ぐっすり眠れるといいな。
そんな文章から、読み取れる限りの情報に想像を膨らませつつ返信内容を考えながら…文末を【僕も、とても楽しかったですよ!それでは、おやすみなさい】と締めくくった。
そしてスマホをジーンズのポケットに納め、カプセルホテルへ足を進めることに集中した。
**
「おはようございます。土岐さん、この後の予定ってありますか?…買い物行きません?」
翌朝の0800ーー。
普段より2時間遅くベッドから出たところで、麻生さんたちと顔を合わせた。3人も今起きたようだ。
そして俺の顔を見るなり、そう言い出したのも麻生さんだった。
「麻生さん、おはようございます。買い物ですか…?予定はこれといって無いですけど…でも買う物も特に無いですし。」
「えっ。昨日、望月さんと"イイ感じ"になったんじゃないんですか?…デートの時の服ぐらい買っておかないと!…正直、俺は"土岐さん帰ってこないかな?"って、帰ってこない方に期待したんですけど…帰ってきちゃったじゃないですか。"お持ち帰り"してもよかったぐらいだったのに…。」
どうして、この人は朝からこうも"夜の話"をするんだろうか。
ほんと…麻生さんの、こういうところは嫌いだ。
「あなたと一緒にしないで下さい!彼女は、そんなんじゃありませんって。」
「失礼な!俺も昨日は"何もなかった"ですよ!」
「麻生先輩。朝のホテルでする話じゃないんで、そろそろやめません?」
古川、ありがとう。
「でも…せっかく出てきたんで、どっか寄ってきません?…そうだ、前から言ってるコーヒーの美味しい店教えて下さいよ。土岐先輩、外出申請…今日の最終点呼までですよね。」
中崎…。分かったよ、一緒にいてやるよ。
古川がいるから何とかなるかと思ったけど、そうでもないか…。
まぁ、お前も「麻生さん…苦手ですね」とは言ってたしな。
「中崎、分かった。とりあえず朝飯は付き合うよ。ただし、言ってた店はまた今度な。あの店、この時間混むから。……そうだな、俺は今日までにしてきたよ。」
なんて言いながら、本当のところは麻生さんに俺の【憩いの場】を知られたくないだけだ。
ちなみに。最終点呼とは、1日の最後…いわゆる就寝前に行う上官への業務報告と隊員の所在確認作業のことを指す。
基本的に、外泊込みの外出申請を場合は緊急招集がかからない限り、帰舎予定の日付の最終点呼に間に合うように駐屯地に戻れば良いことになっている。