迷彩服の恋人 【完全版】
「いただきます。」

注文した定食がそれぞれ届いたところで、全員が手を合わせて食べ始める。

「…なぁ、中崎。『ミッドラ』とか『WIZARD』が見られるストリーミングサイト、良いところないか?」

「…えっ、『WIZARD』?…って、アニメの『WIZARD〜天才魔法師の戦術(シナリオ)〜』の話で、『ミッドラ』って『Midnight Driving 〜湾岸に魅せられた者たち〜』の話ですよね?…いきなりどうしたんですか!?ついに見るんですか!?…何かありました?」

中崎の食いつき、すごいな!
麻生さんに、あまり詮索されたくないから…詳しく語るなら、飯の後にしてほしいが……。

「まぁ、それについては…また営内でな。ちなみに、『ミッドラ』の方はアニメじゃなくて…実写映画の方なんだけど。」

「それなら、〝e(イー)ウォッチ〟系が良いと思いますよ。〝アニウォッチ〟、〝ドラウォッチ〟、〝ムビウォッチ〟が1つのアカウントで使えるので。月額770円かかるんですけど、トータル10万作ぐらい見られるので安すぎじゃないかって思います。会員登録するなら、招待コード送っておきますよ。そうすると、土岐先輩は新規登録ボーナスの770ポイントにプラスで、友だち紹介の330ポイントも貰えるので得ですよ。」

そうか、招待コードはそうやって使うんだな。

「あと『WIZARD』ですけど、明日の昼過ぎに隆成(りゅうせい)が帰ってきたらBlu-rayで見れますよ。アイツ、Blu-ray Box買ってるんで。未発売の話数から〝アニウォッチ〟で見れば完璧ですよ。」

はは!さすが加納だな、まさかBlu-ray Boxを所持とは!
ひょっとして、【私物倉庫】に置いてあるのか?

【私物倉庫】とは、いわゆるロッカールームのことだ。

中隊配属後の隊員たちには自室のロッカー以外にももう1つロッカーが与えられ、そこには〝頻繁には使わない物〟を置いておく決まりがある。
例えば、ギターやサーフボード…釣りの道具なんかを置いていたりもする。

「…あの、何の話ですか?俺と古川、全く分からなかったんですけど…。」

「マンガ原作のアニメ化作品の話ですよ、麻生先輩。」

「土岐さんがアニメ?…イメージ無いですけど。」

「そんなことないですよ。俺、〝車バカ〟なんで、車関係の作品はジャンル問わず結構見るんです。」

「あぁ、そういうことか。結構見てますもんね。」

どうやら、誤魔化せたらしい。
麻生さんの思考が単純でよかった。

俺が冷やかされる分には、いっこうに構わないが――。
望月さんが好きなものをバカにされるのは、なぜか釈然(しゃくぜん)としない。

――あっ!昨日の「お母さんに会わせたくない」と言った望月さんは、こんな心境だったのだろうか?

そんなことを考えながら箸を進め…全員が完食して各々で会計を済ませた。

「渋谷行きたいんですけど、良いですか?」

「俺は良いですよ。」

「俺も。」

古川や中崎も、あっさりとノっている。

渋谷か――。
明らかに、麻生さんと俺では服の趣味が違う。

俺はどちらかというと――。
同い年だが、“俺が中抜けしている期間に入隊していた先輩”の鬼島(きじま) 伊吹(いぶき)さんや志貴先輩と来た方が参考になるんだがな…。
俺と鬼島さんは〝相棒(バディ)の関係〟だから、課業中は(おおむ)ね行動を共にしている。

さて、それじゃあ適当にブラブラして…目ぼしい物が無かったら大型書店にでも入るとしますか。
どのみち、今日の俺の役割は概ね〝荷物番〟だろうし。

「俺も良いですよ、渋谷で。」

「じゃあ。行きますか!」

こうして、次の目的地である渋谷のショッピングモールへ向かった。
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