モテ男子はミソ・ラブ女子に陥落する
エピローグ
ハッピーエンドはおいしいご飯とかわいいペット
週末の土曜日。
軽トラを借りて、荷物をすべて運んだ。大家が、いくら火事だったからとはいえ、急に無理なことを頼むからと、ゴミに関しては大小関係なく費用を持つと言ってくれたので、ロフトベッドだけ置いて引っ越すことにした。
沙也的には祐司郎の部屋へは一時的な間借りなのだから、ロフトベッドは捨てたくはなかったが、場所も取るし、祐司郎が捨てろと言うのでそれに従った。
二人で荷物を運びこみ、一息ついたところで食料品の買い出しに行き、今、二人はダイニングキッチンのテーブルについて夕食をとろうとしていた。
食卓は和食で彩られている。茄子とこんにゃくの田楽、鰆の西京焼き、ほうれん草の胡麻味噌和え、揚げ出し豆腐が並んでいる。ご飯に合うものばかりだ。沙也が最後に、アサリの味噌汁を置いた。揚げ出し豆腐以外、すべて味噌がらみだ。
「赤味噌にしたんだ」
「はい。福島のお味噌で、伊達政宗ゆかりの仙台味噌です」
「へえ。んじゃ、いただきます――うまっ」
まずは味噌汁からと、祐司郎が椀から口につけてそう言った。
「おいしいは最高の誉め言葉です」
「お世辞じゃなくてマジうまい。店の食事も確かにおいしいけど、家庭料理もいいなーって感じ。俺の母親も、今は病院の経理とかやってるけど、若い時は看護師だったから、あんま手料理って食った覚えないんだよね。うれしいな」
「…………」
「どうかした?」
「なんか、信じられなくて。黒崎さんとこんな風に過ごしてる自分が、ホントに信じられない。家賃とか、いいんですか?」
「沙也は俺のカノジョだから家賃なんて発生しない」
沙也はカノジョという言葉に頬を赤らめ、うつむき加減に照れている。
「ん?」
足元に気配を感じて見てみると、フランソワーズがいつの間には寄ってきていた。
「フランソワーズも沙也が好きみたいだ」
「え? そうなの?」
「俺に懐くのに三か月くらいかかったから。同じ女の子だから気が合うのかな」
「…………」
「どうかした?」
「フランソワーズってメスだったんですか?」
「ああ、れっきとした。なんで?」
問われて沙也は苦笑した。
「いえ、根拠はないです。なんとなく。あー、でも、そうですよね、フランソワーズって女性の名前だし。フランソワーズ、同じ女同士、仲よくしようね」
沙紀はフランソワーズの前足の脇に手を入れ、ひょいと抱き上げた。そして膝の上に置いて頭を撫でると、フランソワーズは満足そうに目を細めた。
「確かに慣れるとかわいいですね!」
「二人と一匹、仲良く暮らそう」
「はい。けど、私のほうはまだまだ多難です」
「なんで?」
「人事部に住所変更をどう届けるか悩みものだし、よく遊びにくるいとこになんて、どう説明すべきか、それを考えると頭が痛いです」
「いとこって、勇仁君?」
「ええ」
すると、祐司郎がふと顔を天井に向けた。なにか考え込んでいる感じだ。
「どうかしました?」
「いや、なんでもない。けど、まぁ、俺が責任を取るから、正直に話したらいいよ」
「? どういう意味?」
「わからなくていいよ。いいんだけど、勇仁君のことは俺に投げてくれたらいい。文句は祐司郎に言えって言って」
「はあ」
なにがなにやらわからない沙也に祐司郎が微笑みかえる。イケメンだけに笑顔がもたらす破壊力はすさまじい。沙也は祐司郎に見惚れた。
「会社にバレたら、ホント、生きていけない」
「ん?」
「でも……危険でもいいから、自分に与えられた幸せを、ありがたいと思って堪能しようと思います」
沙也の言葉に驚いたような顔をした祐司郎だったが、すぐにまだ甘い笑顔に戻る。
「陥落したのは俺のほうだからさ。もし誰かになにか言われたら、お前が落とせなかったんだろって言えばいいよ」
沙也は言葉を失ったものの、確かにその通りだと納得した。
「はい」
それは祐司郎に対して向けた初めての、会心の笑みだった。
終
軽トラを借りて、荷物をすべて運んだ。大家が、いくら火事だったからとはいえ、急に無理なことを頼むからと、ゴミに関しては大小関係なく費用を持つと言ってくれたので、ロフトベッドだけ置いて引っ越すことにした。
沙也的には祐司郎の部屋へは一時的な間借りなのだから、ロフトベッドは捨てたくはなかったが、場所も取るし、祐司郎が捨てろと言うのでそれに従った。
二人で荷物を運びこみ、一息ついたところで食料品の買い出しに行き、今、二人はダイニングキッチンのテーブルについて夕食をとろうとしていた。
食卓は和食で彩られている。茄子とこんにゃくの田楽、鰆の西京焼き、ほうれん草の胡麻味噌和え、揚げ出し豆腐が並んでいる。ご飯に合うものばかりだ。沙也が最後に、アサリの味噌汁を置いた。揚げ出し豆腐以外、すべて味噌がらみだ。
「赤味噌にしたんだ」
「はい。福島のお味噌で、伊達政宗ゆかりの仙台味噌です」
「へえ。んじゃ、いただきます――うまっ」
まずは味噌汁からと、祐司郎が椀から口につけてそう言った。
「おいしいは最高の誉め言葉です」
「お世辞じゃなくてマジうまい。店の食事も確かにおいしいけど、家庭料理もいいなーって感じ。俺の母親も、今は病院の経理とかやってるけど、若い時は看護師だったから、あんま手料理って食った覚えないんだよね。うれしいな」
「…………」
「どうかした?」
「なんか、信じられなくて。黒崎さんとこんな風に過ごしてる自分が、ホントに信じられない。家賃とか、いいんですか?」
「沙也は俺のカノジョだから家賃なんて発生しない」
沙也はカノジョという言葉に頬を赤らめ、うつむき加減に照れている。
「ん?」
足元に気配を感じて見てみると、フランソワーズがいつの間には寄ってきていた。
「フランソワーズも沙也が好きみたいだ」
「え? そうなの?」
「俺に懐くのに三か月くらいかかったから。同じ女の子だから気が合うのかな」
「…………」
「どうかした?」
「フランソワーズってメスだったんですか?」
「ああ、れっきとした。なんで?」
問われて沙也は苦笑した。
「いえ、根拠はないです。なんとなく。あー、でも、そうですよね、フランソワーズって女性の名前だし。フランソワーズ、同じ女同士、仲よくしようね」
沙紀はフランソワーズの前足の脇に手を入れ、ひょいと抱き上げた。そして膝の上に置いて頭を撫でると、フランソワーズは満足そうに目を細めた。
「確かに慣れるとかわいいですね!」
「二人と一匹、仲良く暮らそう」
「はい。けど、私のほうはまだまだ多難です」
「なんで?」
「人事部に住所変更をどう届けるか悩みものだし、よく遊びにくるいとこになんて、どう説明すべきか、それを考えると頭が痛いです」
「いとこって、勇仁君?」
「ええ」
すると、祐司郎がふと顔を天井に向けた。なにか考え込んでいる感じだ。
「どうかしました?」
「いや、なんでもない。けど、まぁ、俺が責任を取るから、正直に話したらいいよ」
「? どういう意味?」
「わからなくていいよ。いいんだけど、勇仁君のことは俺に投げてくれたらいい。文句は祐司郎に言えって言って」
「はあ」
なにがなにやらわからない沙也に祐司郎が微笑みかえる。イケメンだけに笑顔がもたらす破壊力はすさまじい。沙也は祐司郎に見惚れた。
「会社にバレたら、ホント、生きていけない」
「ん?」
「でも……危険でもいいから、自分に与えられた幸せを、ありがたいと思って堪能しようと思います」
沙也の言葉に驚いたような顔をした祐司郎だったが、すぐにまだ甘い笑顔に戻る。
「陥落したのは俺のほうだからさ。もし誰かになにか言われたら、お前が落とせなかったんだろって言えばいいよ」
沙也は言葉を失ったものの、確かにその通りだと納得した。
「はい」
それは祐司郎に対して向けた初めての、会心の笑みだった。
終