インビジブル・ブルー
「ああそうだ。ところで頼んでおいた物は買ってきてくれたんだろうな?」

「当然でしょ」

ガクは少女を抱えたまま、玄関に向かって顎を突き出した。

「金は足りたか?」

「まさか」

「幾ら足りない」

「いいわ。今月の家賃と思って出しといてあげたから」

「絵は?」

「売れたわよ。一枚だけ」

ガクは少女をソファに下ろし、ポケットの紙幣をテーブルに投げた。

「二万円也」

「ふん」

僕はコーヒーメーカーのスイッチを入れ、玄関の紙袋を覗き込んだ。

数枚のカンバスと新しいパレット。それから、無くなった色のアクリルガッシュチューブが数種類。筆、鉛筆、ケント紙。

なるほど。

頼んでおいた品に不足はないが、どれもこれも高級品ばかりを選んでやがる。おおかた画材店のオヤジに進められるがままに買ったのだろう。

僕は小さく舌打ちした。

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