インビジブル・ブルー
あの日、僕が彼女と現実から逃避したのには、僕らなり理由があった。

深い森に潜れば、この汚れた体でさえも、森が浄化してくれるんじゃないか。そんな淡い思いを僕たちは抱いていた。



僕は、落ちたのだ。

深くて暗い。二度と這い上がることのできない井戸の底に。

僕が落ちる間際に差し出された彼女の手は、男達に縛られ、虚空を掴んだ。

悲鳴が聞こえた。

つんざくような悲鳴だった。

僕は井戸の中で必死にもがき、彼女の名を叫んだ。

爪が剥がれた。

皮がめくれた。

赤黒い血が井戸の壁に染み込み、幾筋もの傷を刻んでいった。

それでも僕はよじ登ろうとした。彼女の悲鳴に奥歯を噛みしめた。

だけど、頭上に見える小さな灯りは、少しも大きくならなかった。

灯りの先で、彼女の影が揺れていた。グラグラと妖しく揺れていた。やがて男達の喜々とした声が聞こえた。

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