インビジブル・ブルー
「ねぇ」

ブナ林の間から声がした。迷走する魂が霧散し、僕のもとに帰ってくる。たった一言で、女の強い意志と気性を感じ取っていた。

僕は一つ、瞬きをした。

「誰?」

空を見つめたまま、僕は訊ねた。まるで生気の抜けた乾いた声だった。

予想どおり返事はない。そんな気はしていた。まず何より、彼女には足音がない。これだけ落ち葉が降り積もる林の中でだ。

ゾクリと悪寒を感じた。

腐臭。それとはまた少し違う。荒廃と死を予感させる甘美なる媚薬。

焦点が合う。

意識を呼び覚ますと、声の主は僕のすぐ隣に立っていた。

少女だった。

十五・六といったところだろうか。中学、あるいは高校。どちらともつかない顔立ちをしていた。

ミニスカートから内股の奥が見えた。

細くくびれた足だったが、真っ白な肌は瑞々しさに覆われ、太股にはそれなりの肉感があった。

ガクが見たら、今すぐにでも縄を掛け、蝋を垂らそうとするに違いない。

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