インビジブル・ブルー
クズだ。僕は最低の人間だ。「知らなかった」などという、そんな簡単な言葉で済まされるほど、僕が彼女の対して犯した罪は生易しい物じゃなかった。

だから捨てた。

すべてを捨てた。

過去も、未来も、全部。

何もかも捨てて、一人で生きていくと決めたはずだった。

死ねば良かったのだ。

あの時死んでいれば、この狂気の連鎖は断ち切れたのだ。

弱さ。

弱さ。

弱さ。

僕はなんて愚かなんだ。

怖かった。死ぬことが怖かった。

死ねば僕はどうなるのかと、そればかり考えていた。

死ねばすべて消える。僕には残せる物が何もない。何の取り柄もない。僕がこの世に生きていたという証は、僕が死んで、この肉体が朽ちてしまえば、跡形もなく消えてしまうだけだ。

親戚共はきっと胸を撫で下ろすだろう。「真面目な人でしたよ」と、昔の僕を知るヤツらはニヤニヤとインタビューに応えるだろう。そして僕の存在を心の中から消去するのだ。まるでコンピュータからいらなくなったデータを削除するように。まるで僕など最初からいなかったように。

僕は、それが堪らなく怖かった。

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