インビジブル・ブルー
かつて僕は会社に勤めていた。
社会という大人が創り出したシステムに迎合できず、いつも体のどこかに違和感を覚えながら、それでも生きるためだけに耐えてきた。
ところが、ある朝突然ネクタイの締め方が分からなくなった。
何度やり直しても、どれほど思い出そうとしても、指が震え、かじかみ、言うことをきかなくなった。
何度も彼女のことを思い出した。すぐにでも会いたかった。でも、僕が彼女にしたことを思うと、とても会いになど行けるはずもなかった。
僕は、自分の快楽のためだけに、男達に彼女を襲わせたのだ。
人としての禁忌を犯したのだ。
だけど僕は彼女を愛していた。本当に、本当に、心から愛していた。
だからこそ、僕はもう二度と彼女と会わないと決めた。会えばまた僕は犯罪を犯してしまう。彼女を犠牲にしてしまう。
それなのに――
「三日前、ママが死んだの」
とレイは言った。
まるで、飼っていた金魚が死んでしまったのとでも言うような、空虚で抑揚のない声だった。
その一言に、僕の思考はすべて消し飛んでしまった。
社会という大人が創り出したシステムに迎合できず、いつも体のどこかに違和感を覚えながら、それでも生きるためだけに耐えてきた。
ところが、ある朝突然ネクタイの締め方が分からなくなった。
何度やり直しても、どれほど思い出そうとしても、指が震え、かじかみ、言うことをきかなくなった。
何度も彼女のことを思い出した。すぐにでも会いたかった。でも、僕が彼女にしたことを思うと、とても会いになど行けるはずもなかった。
僕は、自分の快楽のためだけに、男達に彼女を襲わせたのだ。
人としての禁忌を犯したのだ。
だけど僕は彼女を愛していた。本当に、本当に、心から愛していた。
だからこそ、僕はもう二度と彼女と会わないと決めた。会えばまた僕は犯罪を犯してしまう。彼女を犠牲にしてしまう。
それなのに――
「三日前、ママが死んだの」
とレイは言った。
まるで、飼っていた金魚が死んでしまったのとでも言うような、空虚で抑揚のない声だった。
その一言に、僕の思考はすべて消し飛んでしまった。