インビジブル・ブルー
「残ったのは、優しかったママとの想い出と、部屋中に飾られたあなたの絵。たったそれだけだった」

ポタリと雫が落ちた。

泣いていた。

僕の胸に顔を伏せたまま、少女は静かに泣いていた。

「殺してやるって思った。何もかも全部ぶちこわして、ついでに私も一緒に消えてしまえばいいって」

レイが顔を上げた。

体内に僕を飲み込んだまま、少女は少し笑って見せた。

「でもね。その前にどうしても、あなたに抱かれたかった」

「……なぜ?」

「分かるの。あなたの痛みが。あなたの絵をずっと見てたから」

レイは僕の頬に手を伸ばし、そっと顔を近づけた。

「あなたの絵を見ていると、どんどん涙が溢れてくるの。私とママをこんなに苦しめたヤツなのに、憎い男なのに、あなたの痛みが私を捉えて放さないの」

唇が触れた。

どうしようもなく愛おしく感じた。きつく抱きしめると、少女も僕の首に手を回し、細い肩を振るわせた。

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