仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない
病院を出ると、朝の陽ざしが大知を容赦なく照らした。ずっと室内にいたせいもあり、目が慣れない。
ものの五分ほどで拓郎に指定された喫茶店へ着くと、店内を見渡す。テーブル席は朝食をとるサラリーマンであふれ、満席に近かった。
「大知、こっちだ」
一番奥から、拓郎が手を挙げ大知を呼ぶ。しかも、秘書はおらず、一人。珍しい。
「なんだよ、こんな朝から」
言いながらどかっとソファ席に腰を下ろす。すると拓郎が、自分のスマホを大知に突き付けた。
「選べ」
「は?」
「誰がいい?」
見れば知らない女性の写真が、拓郎のスマホの中にあった。何の話をしているかわからず、思いっきり目が点になる。
「おっしゃっている意味がわかりませんが」
わざと敬語でつっけんどんに言い返す。そういえば、以前にもこういうことがあった。そう、杏と結婚する前だ。
こんなふうに、女性の写真を持ってきて、選べと言うのだ。だが拓郎は大知の殺気も気にせず、写真をどんどんスクロールする。
「これはなんの真似だ」
「杏さんとは、別れなさい」
「何をいいだすんだ急に」
「彼女の家は借金だらけという話じゃないか。まったく、とんだ誤算だったよ。調べるべきだった」