仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない


 全く見当がつかないまま、ぼんやりと街中を歩く。

 拓郎とは見合いの席と結婚式で会っただけ。一見堅物そうに見えるがコミュニケーション力が高く、始終杏を気遣ってくれた。まさに、政治にたずさわる人だと感じた。

 大知はそんな拓郎に屈するタイプではないのだが、さっきの会話はどこか大知らしくなかった。

(私の知らないところで、何かが起こってる?)

 大知に聞くべきか。でももし、悪いことだったら……。ようやく結ばれただけに、怖くて聞けない。杏はもやもやする気持ちを抱えたまま、学校へと向かった。


 結局この日は、授業にも身が入らず、ずっと上の空だった。ランチの時もぼーっとしてしまい、清香に何度も「ごはんこぼれてる」と、突っ込まれてしまった。

 顔を合わせられたら、少しは安心するんだろう。けれど夕方、杏が自宅に帰宅するのと同時に大知から、今日も先に寝ててと連絡があった。

 思いが通じ合ってもなかなかうまくいかないものだ。夜、杏はベランダで海を眺めながら、複雑な想いに暮れていた。


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