仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない
翌日、学校に向かうため朝から家を出た。大知は結局帰宅できなかったようだった。
外に出ると、朝日が容赦なく杏を照らす。九月とはいえ、気温はすでに三十度を超えていそうで、今日も暑くなるのが予見された。
しかも昨夜はあまり眠れず、頭がボーっとしている。
(どうしよう。無理しない方がいいかな……)
自分の虚弱体質ぶりが嫌になる。
「あなた、大丈夫?」
木陰にうずくまっていると、そこに一人の女性が声をかけてきた。ゆっくり顔を上げると、スーツを着たOLふうの綺麗な女性が心配そうに杏を覗き込んでいた。
「すみません、大丈夫です。ちょっと立ち眩みがしただけなので」
「あら、あなたもしかして岩鬼先生の奥様?」
大知の名前を出され、ハッとする。
スラリと背が高く、猫っぽいつり目がちの目が印象的。誰だろう? 大知の仕事関係の人?
頭の中に疑問符を浮かべていると、女性が口を開いた。